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  • Hideya Tanaka

Issue 193 - 真実をめぐる戦い

近年、フェイクニュースに代表されるような偽情報(Disinformation)や誤報(Misinformation)の拡散が至るところで起きており、社会だけでなく企業にとっても大きなリスクや脅威となっています。そこで今回のSeattle Watchでは、この問題の深刻さとそれに対抗するテクノロジーについて紹介していきます。

 

フェイクニュースという言葉が一般化して久しいですが、テクノロジーの発展に伴って、私たちは「真実」を知ることがますます難しくなってきています。フェイクニュースの拡散は新型コロナウイルスのパンデミックに例えられることもあり、インフォメーション(Information)とパンデミック(Pandemic)を組み合わせた造語であるインフォデミックという言葉も生まれています。つまり、大量の情報が氾濫するなかで、不正確な情報や誤った情報が急速に拡散し、社会に悪影響を及ぼしているのです。


ちなみに、海外ではフェイクニュースという表現の他に、「Disinformation(意図的に誤解を招く、あるいは偏った偽情報で、操作された物語や事実)」や「Misinformation(誤解を招く意図の有無にかかわらず、流布される誤報)」という表現も多く用いられています。これらの偽情報や誤報はすでに社会に大きなダメージを与え始めており、Statistaの2020年のデータによると、金融、政治、医療分野でのフェイクニュースの拡散を考慮すると、この拡散による世界的な経済損失は約780億ドルに上ると言います。


偽情報や誤報は企業にとっても大きなリスクや脅威となっています。例えば、「半導体大手企業が計画していた別のハイテク企業の買収が国家安全保障上の懸念を引き起こした」と記載された米国防総省の偽造メモが拡散されたことで、両社の株価が下落したり、ボトル入り飲料水の企業の製品が汚染されているという虚偽ニュースが報じられて、同社のブランド価値を棄損したりしています。さらに、米国の通信キャリアが5G展開を各国に先駆けて始めた際には、海外の競合企業は5Gが米国人の健康に悪影響を与えていると主張し、5Gの開発競争で時間稼ぎをしようとしたという事例もあります。


恐ろしいことに、DaaS(Disinformation as a Service)というサービスも登場しています。DaaSの事業者は、クライアントから依頼を受けると偽情報のキャンペーンや記事を作成して、様々なメディアで大規模に配信しています。これらのキャンペーンは安価に作成可能で、1,000文字の記事を作成するのに15~45ドル、メディアソースに直接コンタクトして記事を拡散するのに65ドルといった価格で取引されています。


さらに、急速に普及する生成AIによって作られたコンテンツがネット上の誤情報や偽情報の氾濫をさらに悪化させているという問題もあります。欧州警察機構(Europol)が2022年に発表した報告書には、「専門家の予測では、2026年までにオンラインコンテンツの90% がAI によって生成または操作される可能性がある」と記載されており、生成AI によるコンテンツの増加によってフェイク情報も増えることが懸念されています。


テクノロジーが真実を知ることから私たちを遠ざけている一方で、この流れを止めることができるのもテクノロジーの役割になっています。イスラエルのスタートアップであるCyabra(https://cyabra.com/ )は、ソーシャルメディアにおける真正性の確保を目指しており、botbusters.ai(https://botbusters.ai/ )と呼ばれるコンテンツ検知ツールを開発しています。このツールでは、数百の異なるパラメータと照らし合わせてコンテンツを調査するために機械学習アルゴリズムを使用しており、偽のソーシャルメディアのプロフィールを検出したり、コンテンツがAIよって生成されたものかどうかをチェックしたりすることができます。また、米国のBlackbird.AI(https://www.blackbird.ai/)は、情報エコシステム全体の信頼性、安全性、完全性を強化するというミッションのもと、AIを活用したリスクインテリジェンスツールを提供しています。同社のBlackbird Constellation Platformは、オンライン上のコンテンツを監視し、偽情報を可能な限り迅速に特定して対抗するAIソリューションで、情報主導型攻撃やナラティブ操作から企業やブランドを守ることができます。


このように真実をめぐる戦いが加速している世の中では、私たちは一個人として、自分が誤情報や偽情報が広がりやすい構造に陥っているということをメタ認知することも必要になってきます。それは、私たちが、アテンションエコノミー(人々の注目や関心が経済的価値を持つこと)の餌食になっていることや、フィルターバブルやエコーチェンバーに陥っている可能性があるのを認識することであり、より能動的に情報と向き合うということでもあると思います。そして、ビジネスパーソンとしては、偽情報や誤報の拡散という大きな社会問題をビジネス機会と認識し、その解決にどのように貢献ができるかを検討する余地があるのではないでしょうか?



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