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David Peterman

SW 210 - シアトルで台頭するキッチンテック

今回のSeattle Watchでは、先月シアトルで開催されたSmart Kitchen Summit(SKS)について紹介していきます。前回は、生成AIによる自律的な協働ロボットの進化について紹介しましたが、こうした自動化の流れが私たちにより身近な場所であるキッチンにも来ようとしています。


 

シアトルで有名な産業と言われて、すぐに思い浮かぶのは、Boeingの航空宇宙産業、MicrosoftやAmazonのITに関連するテクノロジー産業だと思います。シアトルは、さまざまな産業のテクノロジーを生み出し、それによって何十年にもわたって世界のテクノロジーハブとして栄えていますが、最近は少し変わった領域のテクノロジーが注目を集めています。それは、Kitchen Technology(キッチンテック)です。


シアトルでは2015年からSmart Kitchen Summit(SKS)が開催されています。このイベントにはキッチン業界の専門家やフードイノベーターたちが集い、一般家庭や商業施設における食品調理方法に影響を与える最新の製品やトレンドが紹介されてきましたが、パンデミックの影響で数年間中断されていました。今年に入って復活し、2024年6月にシアトルのベルタウン地区で開催され、300人以上の参加者が$1,295という決して安くない参加費用を払って、2日間のイベントに参加しました。また、日本でも2023年7月から開催され、今年も10月にSKS Japanが開催されるようです。


2024年のSKSでは、主に6つのトピックが取り上げられました。それらは、「AIと食」、「持続可能性」、「パーソナライゼーション」、「自動化とロボティクス」、「オンデマンド分散型食品製造(3Dプリンティングなど)」、「フードディスカバリーと食事計画(新しい料理本としてのTiktok)」です。AIが今年の注目のトピックに入っているのは驚きませんが、それ以外のトピックについて参加者たちは過去の流れを見たうえで新しい技術への過度な期待を抑えようとしているように見えます。というのも、過去から続く多くの失敗の歴史があるからです。例えば過去に多くの家電メーカーがWi-Fi機能を製品に搭載し始めましたが、実際にはユーザーにはほとんど利益をもたらさなかったことがありました。料理セクターの起業家であるScott Heimendinger氏は、「新しい技術が登場すると、私たちの業界では特にその技術を取り入れたくなる誘惑がある。」と指摘し「私たちは多くの製品にWi-Fiを導入したが、Wi-Fi対応の麺棒を誰も必要としなかった。」と続けています。


今回はこのSKSで発表されたB2CおよびB2B向けのキッチン向けのテクノロジーの一部を紹介したいと思います。


Nymbleは、Private Robot Chefという調理ロボットを開発しており、同製品は、タッチスクリーンで500以上のレシピから作りたい料理を選択し、指定された容器に材料、水と油、そして調味料をセットすると、残りの調理工程を自動で行ってくれる。例えば、適切な温度とタイミングで材料や調味料を鍋に投入し、アームで料理をかき混ぜてくれる。この調理ロボットはサンフランシスコのベイエリアで広範なベータテストを実施しており、半年以内に小売価格$1,500で出荷される予定である。



家庭で屋外グリルを使用する際は、炭の代替として天然ガスが一般的に使われている。Current Grillsでは、天然ガスの使用による環境負荷が懸念される中で、標準のコンセントで利用できる電気グリルを開発することで、その課題を解決しようとしている。製品には2つのモデルがあり、$799と$899の価格で販売されている。これらの製品では、多くのガスグリルより高温な300℃以上で調理することが可能で、付属のアプリで温度をコントロールしたり、さまざまなレシピにアクセスしたりできる。しかし、ある専門家は、グリルには「火」が必要であると考える消費者の心理をいかに変えて、電気グリルに移行してもらうかが、同社にとって大きな課題であると指摘している。



Bridge Appliancesでは、朝食用のサンドイッチを提供する小さなカフェが直面している問題の解決を試みている。小さなカフェで目玉焼きサンドイッチの卵を調理するには手間がかかり、多くのスペースを取ってしまう。そこで、同社はOMMと呼ばれるカウンタートップ型の自動目玉焼き機を開発している。同製品では、人間の手をほとんど介さずに目玉焼きを調理できる。卵を上部の冷蔵コンパートメントに投入すると、一つひとつの卵が正確に割られて、油が自動噴射されるフライパンの上で完璧に調理され、出来上がると下部の保温トレイに届けられる仕組みになっている。



TechMagicは、レストランにおけるほぼすべての調理作業を自動化することを目指している。例えば、I-Robo2は火力や鍋、ヘラの回転速度を自在に調整することが可能なロボットで、チャーハンや麻婆豆腐などの炒め料理を自動化している。また、低コストかつ1時間に約30食というスピードで調理することができる。また、W-RoboはAIを使用して、食器洗浄機から出てきたボウルや皿を慎重に仕分けして自動で格納してくれる。これによって、レストランは従業員の負担を軽減して生産性を高めることができる。また、パスタ自動調理ロボットであるP-Roboは、東京の丸ビルにあるエビノスパゲッティ丸ビル店で稼働しており、食産業における人手不足の問題解決に取り組んでいる。



MAMAY Technologies (https://www.tastegage.com/)

何年もの間、多くの研究所や企業が味覚のデジタル化に取り組んでいるが、その結果はまちまちである。MAMAY Technologiesでは、塩味や甘さといった味覚に対して標準化された客観的な値を開発し、その測定を実施するというアプローチで、味覚のデジタル化を試みている。2023年9月、同社はGAGE Saltiness 1.0をリリースしており、同サービスではカリウム、ナトリウム、酢酸カルシウムなどの13種類の化合物が塩味に与える影響を計算することを実現している。将来的には、ソフトウェアを拡張させて食品内のすべての成分を分析し、特定の味や香りの属性を決定することを目指している。同サービスが完成すると、甘い飲料の砂糖を人工甘味料に置き換えて、全く同じ風味プロファイルを維持するといったことができるようになる。



実際、キッチンにはどれだけのテクノロジーが必要なのでしょうか?The Vergeに寄稿したスマートホームの記者であるJennifer Pattison Tuohy氏は、「私の理想的なスマートキッチンは、パントリーと冷蔵庫に何があるかを把握し、その材料に基づいて食事プランを作成し、必要な追加アイテムを購入し、料理を始めるときに調理器具が準備されているというものである。」と述べています。私たちの一般家庭のキッチンはまだそこまで到達していませんが、レストランの調理場では人手不足の波を受けて自動化がより早く進んでおり、近いうちに人間よりも機械の数が多くなるかもしれません。

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