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SW 235 – AIロボット企業としてのテスラ

  • Webrain Production Team
  • 6 日前
  • 読了時間: 5分

更新日:1 日前

今回のSeattle Watchでは、EV事業の低迷に直面するテスラについて考察していきます。同社のEV事業は、マスク氏の政治介入による反発から生じた不買運動やEVクレジット制度の終了などで苦境に立たされています。しかし、同社は、自動運転技術(ロボタクシー)や人型ロボット開発に活路を見出しており、その将来性に注目が集まっています。

テスラは、先月カリフォルニア州ハリウッドにEV充電器80基を設置したレストラン「テスラ・ダイナー(テスラ Diner)」をオープンしました。ダイナーとは、米国のカジュアルなレストランの一種で、カウンター席があり、いつでもコーヒーと食事がとれるスタイルを取るレストランです。テスラ Dinerでは、飲食の間にEV車両の充電が可能で、充電の待ち時間には駐車場に併設した2つの大型スクリーンで映画も楽しめます。オープン時は、同社が開発する人型ロボット「オプティマス(Optimus)」がポップコーンを配ったことが話題にもなりました。


今回の取り組みについて、ウェドブッシュ証券のアナリストは、全面的なリブランド戦略と指摘しています。その背景には同社CEOであるイーロン・マスク氏に対する支持低迷が背景にあります。同氏は昨年の大統領選でトランプ氏に多額の献金を行い、親密な関係を築いて政権入りしたほか、最近では新党「アメリカ党」の結成を表明するなど、政治介入を続けており、特にリベラル層から強い反発を受けています。そのため、今回の動きは、失墜したテスラのブランドイメージを回復させる狙いがあるとの見方もあります。


実際、テスラの本業であるEV事業は苦戦を強いられています。2025年4月~6月期の決算では、売上高が前年同期比12%減(224億9,600万ドル)、最終利益は16%減の11億7,200万ドルという結果になっており、同期間のEV販売台数は13.5%減の38万4,122台で、過去最大の下落幅を記録しています。


テスラにとって、この後の数四半期は厳しい状況が続くと予想されています。これまで既存の自動車メーカーは、排ガス規制違反による罰金を回避するため、テスラなどのEVメーカーからEVクレジット*を購入してガソリン車の販売を継続してきました。しかし、先月初めに米国で可決された法案で、自動車メーカーへの金銭的ペナルティーが撤廃されたことで、今後はテスラからEVクレジットを購入するインセンティブが完全になくなります。同社は2019年以降、EVクレジットの販売によって106億ドルもの収益を上げてきただけに、この規制変更は同社の収益性に大きな打撃を与える可能性があります。

*EVクレジット:自動車メーカーには一定割合のゼロエミッション車(EVや燃料電池車など)の販売が義務付けられており、この割合を満たせない場合、メーカーは罰金を科されるか、規制を満たす他社から「クレジット(排出権)」を購入しなければならない。


しかし、イーロン・マスク氏は楽観的な見方を示しており、同社の自動運転技術からの収益に期待を寄せています。また、人型ロボットの開発にも多額の投資を行っています。テスラは、テキサス州オースティン市とカリフォルニア州のサンフランシスコの一部地域で自動運転タクシー(ロボタクシー)を使った配車事業を始めています。一律4.2ドルで利用可能で、前の座席には「安全監視員」が乗り込んでいます。ロボタクシーの商用化で先行しているのはGoogle系のWaymoですが、テスラはカメラとAIを駆使して高精度地図を不要とするエンド・ツー・エンド(E2E)の自動運転技術の優位性を生かし、コストや事業地域の拡大スピード、車両投入規模の3つの面でWaymoよりも勝ると見込んでいます。また、昨年のSeattle Watchでも紹介した自動運転タクシー用の車両「サイバーキャブ」の量産も2026年に予定しています。


また、人型ロボットのオプティマス(Optimus)への期待も高くなっています。オプティマスは、同社の自動運転車技術に使われているAIやセンサー技術を応用し、家庭内や工場などで人間と同様の作業を行えるように設計された人型ロボットです。5月時点の公開動画では、ゴミ出しから鍋を使った料理、さらには工場での作業まで、幅広いタスクをこなせることをアピールしました。オプティマスの特長は、その学習方法にあります。従来のロボットティーチングでは、モーションキャプチャーなどの技術を用い、人間が動作を一つひとつ細かくプログラムする必要がありました。これに対しテスラは、人間が作業している動画をロボットに見せるだけで、ロボット自身が「こうすればよいのか」と理解し、現実世界でその作業を実行できるというアプローチを採用しています。この「見て学ぶ」能力が、オプティマスを従来のロボットとは一線を画す存在にしています。


このように、EV事業が低迷する中、テスラはAIを用いたロボタクシーと家庭用/業務用のロボット事業に活路を見出そうとしています。しかし、忘れてはならないのはイーロン・マスク氏が所有する他の企業の存在です。マスク氏は、LLMベースの会話型AI「Grok」を開発するxAI、宇宙事業を担うSpaceX、地下トンネルインフラを手がけるThe Boring Companyを含む企業群を「Muskonomy」(マスコノミー)として位置づけ、これらをひとつの経済エコシステムとして連携させ、相乗効果を生み出す構想を提唱しています。そのため、テスラの成長性については、マスコノミー全体の視点から判断することが重要になってくると考えられます。


ただし注意すべきは、マスコノミーが創業者症候群(Founder’s Syndrome)と表裏一体である点です。創業者症候群とは、創業者の人格と組織のビジョンや事業活動が不可分で、創業者の影響力が過度に大きくなることでガバナンスや承継に問題を生じる現象を指します。実際、テスラは8月4日、イーロン・マスク氏に約290億ドル(約4兆3,000億円)の暫定的な株式報酬を支払うことを明らかにしており、この報酬は、同氏が今後2年間CEOを務めることなどを条件としており、マスク氏をテスラ経営に専念させる狙いがあります。Google、Amazon、MicrosoftのようにCEO継承が進んでいる企業と比較すると、テスラには依然として大きなリスクが残ります。今後、同社がどこまで「イーロン・マスクという一人の人間」に依存し続けるのか、その在り方にも注目が集まっています。https://www.theverge.com/news/718032/tesla-elon-musk-stock-pay-29-billion-ceo-shareholders


Webrain Production Team

 
 
 

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