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  • Hideya Tanaka

Issue 189 - 不確実性の時代におけるトレンド予測の限界

今回のSeattle Watchでは、テクノロジーのトレンド予測について考察していきます。長期トレンドを追いかけることは非常に大切です。しかし、長期スパンでの予測はますます難しくなり、そのサイクルはより短くなってきています。このような不確実性に時代においてより求められるのは、自らの志や美意識に基づいて未来を創造していくアート思考ではないかと改めて思います。

 

あっという間に2023年も9月を迎えました。様々な最先端の技術やトレンドを調査する中で、直近数カ月で気づいたのは、さまざまなコンサルティング企業やリサーチ企業が、新しいテクノロジーを紹介するレポートを1年の半ば(6月頃)にも発表していることです。こうしたレポートは、従来であれば一年の初めや終わりのタイミングで発行されることが多い印象ですが、約半年のペースで発行されているのは、ChatGPTに代表されるように、テクノロジーが指数関数的に進化を遂げる中で、長期スパンでの予測がますます難しくなり、常に情報をアップデートして提供しなければいけなくなっていることが考えられます。今回のSeattle Watchでは、複数のテクノロジーに関連するレポートを比較しながら、こうした情報にどう向き合うべきかを考察したいと思います。


世界経済フォーラムでは、「Top 10 Emerging Technologies of 2023」というレポートを7月に発表しています。このレポートは、世界20カ国の90人を超える学者、産業界のリーダー、未来学者の視点を結集したもので、今後3年から5年の間に人と地球に最も影響を与える可能性の高いテクノロジーを4つのカテゴリーに分けて、10種類紹介しています。


気候・自然の危機との闘い

  1. 持続可能な航空燃料(SAF):航空業界が2050年までに排出量ネットゼロを達成するには、SAFの比率を現在の1%から2040年までに13~15%に引き上げる必要がある。

  2. ウェアラブル植物センサー:増加する世界人口の食料需要を満たすには、2050年までに世界の食料生産を70%増加させる必要があり、そのためには、ウェアラブル植物センサーによって、植物の健康状態の改善や農業の生産性向上を実現するデータ(温度、湿度、水分、栄養レベル)を大量に取得し、作物の収量を最大限に高めたり、水や肥料の使用を減らしたり、病気の兆候を早期に発見したりする必要がある。

  3. サステナブル・コンピューティング:AI、クラウド、その他のテクノロジーを下支えするデータセンターは世界の発電量全体の1%を消費しており、今後も電力消費量は増加する。ネット・ゼロ・エネルギーのデータセンターを実現するために、水冷や誘電液体冷却による放熱、余剰熱の建物の暖房や給湯への活用、AIによるデータセンターの効率とパフォーマンスの最適化などの研究や開発が進んでいる。

AI駆動のテクノロジー

  1. 生成AI:生成AIは文章、画像、音声の生成だけにとどまらずに、特定の病状を標的とした薬物設計や、建築、エンジニアリングなどにも応用され始めており、生産性やクリエイティブな成果物の増加につながっている。

  2. ヘルスケアにおけるAI:AIは世界のヘルスケア部門が将来のパンデミックなどの健康危機を予測し、より適切に備えるのに役立つ。また、インフラやスタッフが不足している地域では、医療やヘルスケアサービスへのアクセスを改善する点でAIのメリットが一段と大きくなっている。

健康に関わる新興テクノロジー

  1. メンタルヘルスのためのメタバース:メタバースなどのバーチャル環境は、人々の社会的・職業的な交流だけでなく、予防・診断・治療・教育・研究など、遠隔医療を加速させ、メンタルヘルス治療にも新たな機会をもたらす。例えば、うつ病や不安症などの症状を抱える人の支援や、マインドフルネスや瞑想の促進を目的としたゲームプラットフォームも構築されている。

  2. デザイナー・ファージ:バイオエンジニアリングの進歩によって、ヒト、動物、植物のマイクロバイオーム(微生物叢)を設計して、ヒトや動物のウェルビーイング(幸福)を高めたり、農業生産性を向上させたりできるようになっている。特に、ファージ(遺伝情報に基づいて特定の種類の細菌を識別し、感染させるウイルス)を中心としたテクノロジーの開発が行われており、このファージの遺伝情報を再プログラムすることで、遺伝的指令が細菌に伝達され、マイクロバイオームが関連している病気を治療できるようになると期待されている。

  3. 空間オミックス:空間オミックスとは、高度なイメージング技術と複雑なDNAシーケンスのプロセスを組み合わせることで、生物学的プロセスを分子レベルでマッピングする手法である。空間オミックスによって、約37兆2000億個の細胞の集合体からなる人体の細胞構造や生物学的プロセスの複雑な細部まで調べることができるようになる。

エンジニアリング

  1. フレキシブル・バッテリー:電子機器の可撓性(柔軟性があり折り曲げても折れにくい性質)が向上するにつれて、これらに電力を供給するバッテリーにも曲げやすいタイプのものが登場している。フレキシブル・バッテリーに使われる軽量素材は、ねじったり、伸ばしたり、曲げて形をつくったり、炭素繊維や布のような炭素系の素材にコーティングしたりすることもでき、巻き上げ式のコンピュータースクリーン、スマート衣料やウェアラブルエレクトロニクス、ヘルスケア機器や生体センサーなどの市場を活性化させている。

  2. フレキシブル・エレクトロニクス:BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)は、てんかん患者や、電極で神経系と接続する義肢を使用している患者の治療に使われ始めているが、従来型のBMIは、リジッド・エレクトロニクス(硬くて曲がらない構造)をベースにしており、脳組織になじみにくいという制限があった。しかし、フレキシブル・エレクトロニクス(薄くて柔軟性のある構造)や、生体適合性がより高い素材の開発が進めば、患者にとっての侵襲的体験を減らすことができる。

また、Accentureでは7月に今後数年間で企業が押さえるべきテクノロジートレンドをまとめたレポート「Technology Vision 2023」を発表しています。同社では、「これまで独立して存在していたリアルな原子空間とデジタルな情報空間の生命がシームレスに融合する新世界に向かう」という予測のもと、リアル(物質)とデジタル(ビット)の融合をなめらかにつなぐ4要素として、「デジタル・アイデンティティ(サービス主導からユーザー起点のID生成)」、「透明性のあるデータ」、「一般化するAI(生成AIの活用)」、「テクノロジーで強化されたサイエンス」を挙げています。


さらに、McKinseyも「McKinsey Technology Trends Outlook 2023」というレポートを7月に発行して、今後注目すべき15のテクノロジーを、イノベーション(特許と研究状況)と関心(ニュースとウェブ検索)、関連技術への投資額、求人状況の増加という観点から評価し、「AI革命」、「未来のデジタル世界の構築」、「コンピューティングとコネクティビティ」、「最先端のエンジニアリング」、「持続的な世界に向けて」の5つのカテゴリーに分けて紹介しています。


このように複数のレポートを俯瞰して見ると、共通して挙げられている生成AIやデジタル・アイデンティティ、バイオエンジニアリングなどは既に一定の支持を得ていると言えますが、将来の予測が困難になる中で、予測の中には一瞬で消えてしまったり、日の目を見なかったりするものも十分含まれる可能性があることを理解しておく必要があります。実際、VMwareやNetscapeのマーケティングを担当してきたマイケル・マルニー氏は、調査会社のGartnerが発行する「Hype Cycle for Emerging Technologies(先進技術のハイプ・サイクル)というレポートを過去20年間分収集する中で、過去のハイプ・サイクルに登場した200を超えるテクノロジーのうち、50を超えるテクノロジーは一度だけハイプ・サイクルに登場した「一発屋テクノロジー」であり、ハイプ・サイクルに複数年にわたって登場していたテクノロジーの20%は、主流のテクノロジーとなることなく消え去った分析しています。


このようなテクノロジーの進化やトレンドを常に追いかけて、それに対応していくことはもちろん必要ですが、不確実性が高く変化の早い時代においては、結局は自分が何をしたいかという志や意思、そして将来の社会や産業の大きな絵姿を描くアート思考がますます求められてくるように感じます。経営コンサルタントの山口周氏も著書の中で、「理性や論理によって導かれる正解はコモディティ化している」と指摘し、ビジネスリーダーもアーティストとしての自覚と美意識をもって、自らの会社や事業を「社会彫刻」と理解して携わっていくべきであると主張しています。そして、そのためには、自分にとっての内的な拠り所である「真・善・美」とは一体何なのかを常に内省し、社会や技術の変化に照らし合わせる姿勢が大切なのではないでしょうか?



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