今回のSeattle Watchでは、近年の米国の太陽光発電市場の動向について紹介しています。技術革新によって発電コストや発電効率の改良が進んでおり、気が付かない形で太陽光発電の進化が起きています。
また、10月27日(木)に東京ビッグサイトにて開催のJapan Home & Building Showにおいて、弊社代表の岩崎がウェルビーイングをテーマとした講演をコーディネートさせて頂き、対面形式でいくつかのセミナー行います。ご興味のある方はぜひご参加ください。
私は何年も前からシアトルの自宅にソーラーパネルシステムを設置することを考えていました。ただシアトルは1年を通して曇りや雨の日が多いこともあり、また発電できる電力に対して価格が高すぎたため、しばらく様子を見ていたのです。ところが1年ほど前、この5年間で業界が大きく変化していることを知って驚きました。パネル機器が大幅に安くなっただけでなく発電効率も格段に上がり、屋根上のソーラーパネルによって我が家で使う年間の電気量の約9割を発電できるという計算が出たのです。早速2022年の初めに31枚のパネルで11.16kW発電できるシステムを設置したところ、冬の雨季にも関わらず家庭で必要な電力の約30%を発電することができました。この春から夏にかけては使用量を大幅に上回る発電量になっており、電力会社に余剰電力を供給することでクレジットを積み上げています。
2020年の段階で、米国では太陽光は化石燃料、水力、原子力よりも安い発電方法となり、重要なマイルストーンを達成しています。1977年に1ワットあたり76.67ドルだった太陽光発電のコストは、2020年には0.18ドルにまで落とすことが可能になり、400倍ものコストダウンが実現しました。 https://www.freeingenergy.com/why-does-the-cost-of-renewable-energy-continue-to-get-cheaper-and-cheaper/
この大幅な発電コストの低下の背景には3つの要因があり、すべてが同時に起きています。1つ目は、ソーラーパネルの製造コストが主に中国企業の技術進歩によって低下したことです。また、部品の標準化も進み、設置の簡素化とコストダウンが進んだのです。2つ目は税金控除の仕組みです。アメリカ政府では現在、太陽光発電を設置している家庭に対して30%の税額控除を行っており、仮に3万ドルのシステムを導入した場合、その年の税額から9,000ドルが控除されるのです。3つ目はパネルの効率化です。私が設置したパネルの発電効率は22.1%で、数年前に一般的だった15%から大幅に向上しています。 https://www.energy.gov/eere/solar/homeowners-guide-federal-tax-credit-solar-photovoltaics
しかし、太陽光発電の家庭への導入には課題もあります。太陽光発電を導入した場合でも、夜間や悪天候時には化石燃料で発電した電力の供給が必要になり、完全な形での再生可能エネルギーに移行させたい場合には、日中に発電した余剰電力を貯蔵する蓄電池の設置が必要になります。
最もよく知られているのは、日中に太陽光発電した電力を蓄電し、夜間に使用する大型の充電式電池(バッテリー)を設置する方法です。フロリダ州南部にある人口5万人の太陽光発電コミュニティとして知られるバブコック・ランチ(Babcock Ranch)では、この方式を採用しています。2022年9月末に大型のハリケーン「イアン」がフロリダ州を襲った際、州全体では260万人以上の住民が停電に見舞われましたが、バブコック・ランチは停電することがありませんでした。 https://www.cnn.com/2022/10/02/us/solar-babcock-ranch-florida-hurricane-ian-climate
しかし、このような街全体を覆うグリッド網を整備し、蓄電した電力を供給するシステムの設置は高価であり、多くのスペースを使用するだけでなく、ニッケルやリチウムのようなレアメタルの需要を圧迫します。ただ幸いなことに、さまざまな代替ソリューションが開発されてきています。その1つが揚水発電と呼ばれるもので、Stantec社などの企業が取り組んでいます。陽水発電では、日中に発生した余剰エネルギーを使って、低い貯水池から高い貯水池に水を汲み上げ、夜間に高い貯水池から水を放出してタービンを回転させることで再度発電を行うやり方です。これは比較的簡単な技術ですが、必要な高低差を確保するために多くの土地が必要となります。 https://www.greentechmedia.com/articles/read/most-promising-long-duration-storage-technologies-left-standing
同じようなコンセプトのシステムにStacked Blocksがあります。これは余剰電力を使って水を汲み上げるのではなく、30トンの巨大ブロックをタワーに持ち上げるシステムです。夜間はブロックを下降させることで、その時に発生する落下エネルギーが電力として供給されます。Energy Vault社では、数十から数百のブロックを格納できる大きな構造物(コンクリートバッテリー)を設計しており、商用化に向けて開発を進めています。 https://www.energyvault.com/
一方、技術革新によってソーラーパネルの性能と適応性も向上し続けています。2020年には、テスラが屋根瓦に太陽電池を組み込んだSolar Roofの生産を開始しました。他の企業も、太陽電池を他の建材にシームレスに組み込む方法を研究しています。Ubiquitous Energy社は、窓ガラスに組み込むことができる透明なソーラーパネルを開発し、現代のガラス張りのオフィスビルを巨大な太陽光集熱器に変えることを目指しています。このパネルは、従来のガラスより30%高い程度の価格のため、家庭用としても研究されています。これと類似の技術は日本やオーストラリアでも開発が進んでいます。 https://ubiquitous.energy/
また先ほどに述べたように、現在のソーラーパネルの発電効率は上がったと言っても20%台前半であり、まだまだ改善の余地が残されています。その点で、NovaSolix社が開発するレクテナ(電磁波を直流電流に変換するデバイス)は非常に興味深いです。このレクテナはカーボンナノチューブをその構造に採用しており、同社は90%という驚異的な発電効率を達成できる可能性があると主張しています。このような技術が確立すれば、現在のソーラーシステムと同じ電力を、4分の1程度のパネル数で実現すること可能になります。 https://www.novasolix.com/
もちろん、すべての家庭や地域で太陽光を使った発電がうまくいくわけではありません。しかし、米国では最も安価な発電方法の1つになっていて、曇天のシアトルでも十分に使えることが分かったいま、私は本格的な太陽光発電の革命が始まったと見ても良いのではないかと思います。
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