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  • Toshi Akashi

Issue 138 - Digital Olympics

東京五輪がついに開幕し日本代表選手も多くの活躍を見せています。近年の五輪は、選手がメダルを争うように、テック企業にとっても最先端技術のショールームとなっています。今回は「ハイテク五輪」というテーマで、アスリート、観客、大会運営者を支援している最先端のテクノロジーを紹介していきます。

 

新型コロナウィルスのパンデミックで1年延期された東京オリンピック2020が遂に開催に漕ぎつけました。パンデミックの発生以来、先行きの見えない暗いニュースが続いてきましたが、世界のトップアスリートによる最高のパフォーマンスは、世界中の人々に勇気と感動を与えることでしょう。


皆さんもご存知かと思いますが、最近のオリンピックは「ハイテク五輪」とも言われるように最先端テクノロジーのショールームのようになってきています。今回の東京五輪でも、1,824台のドローンが、東京五輪のエンブレムや3Dの地球儀を作り出し、平昌での冬季オリンピックと同様にインテルがそのデモンストレーションを指揮し、今回はその技術レベルをさらに引き上げています。


Webrainでは、前回の平昌冬季オリンピックで披露された様々な技術を “Digital Olympics: New Moore’s Law for Human Performance” というタイトルで纏めてレポートにしています。また我々が最初にオリンピックでの技術に焦点を当てて制作したのは、2012年のロンドンオリンピックをテーマにした “Data Enhanced Olympics” というレポートでした。少し内容を振り返ると、ロンドンという都市は長年に渡ってテロとの戦いの歴史があり、オリンピックを安全に開催するという大義名分によって街中にセキュリティーカメラが設置され、顔認識技術を使って市民の行動をモニタリングすることが一挙に進んだのです。このような大きなイベントを背景にこれまで進められなかった施策を進めていく動きについて、オンラインメディアのCommon Dreamsは、「災害資本主義(disaster capitalism)」になぞらえて「祝賀資本主義(celebration capitalism)」と表現し注目を集めました。


この災害資本主義とは、世界的に有名なジャーナリストのNaomi Campbell氏が2007年に出版した“The Shock Doctrine: The Rise of Disaster Capitalism”という著書で使った言葉で、戦争も含めた歴史的な大災害が起こると資本家たちは、平時では導入できないソリューションを、危機対応という名目で次々と導入してきたことを表現した言葉です。これは人々の不幸で儲けようとする資本家を痛烈に批判した言葉でもあり、彼女の書籍は日本語を含め世界30カ国以上の言語に翻訳されています。


最先端の技術開発が起こる所として、Webrainでは軍事技術にも注目してアメリカ国防高等研究計画局(DARPA)などの動きも常にモニタリングしています。インターネットも元を辿れば有事の通信網としてDARPAの予算を使ってARPANETとして開発され、次にその一部が大学など高等教育機関の情報共有網として利用されました。90年代に入り、ティム・バーナーズ=リー氏によって世界で初めてウェブページが公開され、HTTPなどの通信プロトコルとモザイクなどのインターネットブラウザーの開発によって商業利用が発展したのです。


オリンピックに話を戻すと、ハイテク五輪は世界の人々が注目する開会式や会場を訪れた人たちが体感するだけではありません。我々がオリンピック関連技術をリサーチして最も進んでいると感じるのは、世界のトップアスリートのトレーニングに使用される技術です。皆さんもご存知にようにオリンピックレベルになると千分の1秒、或いは1万分の1秒の差が勝敗を分けるのです。そこで高解像の特殊なカメラを利用してその差を見える化したり、選手の心拍数や脳の状態を詳細に分析することで、大会の運営や選手のパフォーマンスの向上にも向き合っているのです。(詳細は下記のプレーヤー紹介を参照)


今回のオリンピックでも様々な最先端技術が選手のトレーニングや競技の計測、そして新たな観客体験を高めるために開発されていると思います。大会が終わるとこれらの技術は民生利用を目指して公開されることが多いので、引き続きその動きに注目してみるのも面白いと思います。


また、最新の技術を使ってパフォーマンスをモニタリングしたり分析することはトップアスリートだけの特権ではありません。スマホのアプリやウェラブルデバイスなど様々なデジタルツールが我々でも利用可能になり、数年前のトップアスリートと同じようにトレーニングが出来る環境が整ってきています。今回のオリンピックを見ながら、皆さんも自らのパフォーマンスのデジタル化に挑戦してみてはいかがでしょう?

 

<ハイテク五輪のプレーヤー>

OMEGAは、オリンピック オフィシャルタイムキーパーとして1932年以来、ほぼすべてのオリンピックで公式計時を担当し続けており、データ処理と計時技術を進化させている。同社の写真判定カメラであるScan'O'Vision Myriaは短距離走やハードルなどのレースに導入され、1秒間に最大1万ものデジタル画像を記録できる。また、今回の東京五輪ではAIを活用した画像追跡カメラで各選手の動きを記録しており、競泳での選手の泳ぐスピードを測定したり、ビーチバレーでは選手のジャンプの回数や高さなどが計測できる。

Halo Neuroscience は、HaloSportと呼ばれるヘッドセットを開発している。このヘッドセットを装着すると脳が微調整されて高度な適応能力を発揮する状態(hyperplasticity)になり、脳神経がより強く結びつくことで、筋力、瞬発力、耐久性などを強化できる。既に軍隊や NFL、NBA などのプロ選手やオリンピックチームなどで利用されており、2018年の平昌オリンピックでは米国のスキーチームで導入され、同社の製品を使用した選手は、わずか4週間で推進力が13%、ジャンプの滑らかさが11%向上したと報告している。

Panasonicの非接触バイタルセンシングでは、選手の顔にカメラを当てて心拍数を計測することができる。同技術は、撮影された映像から肉眼では見えない肌の色の微妙な変化を分析し、信号処理によって心拍数データを抽出する。この技術は東京五輪のアーチェリー種目で導入されており、選手の緊張感の高まりを見える化することで、テレビ視聴者の体験を高めたり、選手がトレーニングで活用することで、パフォーマンスを最適化することにも役立つと期待されている。






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