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  • ryee62

Issue 134 - Biomimicry and Innovation

前回までのSeattle Watchでは、過去のレポートに触れながら「5感のデジタル化」について紹介してきました。それは、人間の5感をデジタルの力で模倣するというものでしたが、「模倣」の対象となるのは、人間の5感だけではありません。今回のSeattle Watchでは、生物や地球全体を模倣することでビジネス上の課題や社会課題のブレイクスルーを目指そうとする動きについて紹介していきます。


 

バイオミミクリーという言葉を聞いたことがある人も多いと思います。これは、バイオミメティクス(生物模倣技術)の考え方を拡張したより大きな概念であり、名付け親であるサイエンスライターのジャニン・ベニュス氏は、「より持続可能な地球を作るために、自然のデザインやプロセス、そしてエコシステムを模倣する学問分野である」と説明しています。


10年前の2011年、Financial TimesがFermanian Business and Economic Instituteによる経済予測を紹介し、「このバイオミミクリーが生み出す市場は、2025年までに米国のGDPのうち年間3,000億ドルを占め、160万人の米国人の雇用につながる可能性がある。そして、15年後には世界全体で約1兆ドルの市場に成長する可能性がある。」と伝えています。今回のSeattle Watchでは、なぜバイオミミクリーが注目を集めており、新しいビジネスの創造にどう活用できるのかについて、バイオミメティクスやバイオミミクリーの歴史を振り返りながら考察していきたいと思います。


従来のバイオミメティクス(生物模倣)はハード的な模倣が中心であったと富士通総研のコンサルタントらは分析しています。有名な例としては、「カワセミのくちばしを模倣して空気抵抗を低減した新幹線のフロント部の形状」、「ハスの葉の水をはじく微細構造を模倣した撥水スプレー」、「蚊を模倣した痛みの少ない注射針」、さらに「ミツバチの巣に見られる正六角形の構造を模倣したハニカム構造と呼ばれる構造材料」などが挙げられます。


ところが近年では、ソフトの模倣つまり生物が行う情報処理や制御の仕組みの模倣が広がっています。例えば、日産は魚群の泳ぎに着想を得て、集団で安全かつ効率的に走行できる自動走行ロボットカーを開発しています。「A Scent for New Intelligence」のタイトルで発行したWebrain Reportでも、カリフォルニア州のSalk Institute が、ショウジョウバエが匂いを嗅ぎ分ける仕組みをニューラルネットワークを使って模倣し、データの優先順位付けを行うコンピューターモデルを開発していることを紹介しました。また公立はこだて未来大学の中垣俊之教授の研究チームでは、脳も神経系も持たない単細胞生物の粘菌が迷路を解くように最短経路で移動できることを発見し、この最短経路の探索は電線の敷設経路や交通網などの構築さらには避難経路探索の最適化に活用できるかもしれないと期待されています。


最近は、自然界の仕組みからヒントを得た持続的な製品やサービスの開発、社会課題の解決に向けた取り組みが盛んになっています。例えば、アリ塚の放熱システムを模倣した低コストで駆動するパッシブ型空調システムはジンバブエの複合商業施設で採用されています。また、Biomimicry Instituteが毎年開催するBiomimicry Global Design Challengeでは、SDGsに関連する問題を解決するさまざまなソリューションが提案されています。


地球上の資源を保護し自然と調和するテクノロジーが求められる中、自然に学ぶバイオミミクリーは、今後製造業だけでなくあらゆる産業にとって有益な考え方になるのではないでしょうか?生物学とコンピューターサイエンスなど新しい組み合わせの知識を持つ人材の確保などの現実的な問題はありますが、バイオミミクリーに通じる全体論的な自然観や、アナロジーや抽象化によって新しいビジネスのヒントにするという視点などは、すぐにでも取り入れることができるのではないかと思いますし、特に自分の産業とかけ離れた領域からブレークスルーのヒントを見つけていくアプローチは有効だと思います。


 

<バイオミミクリーを取り入れた企業>


Bioxegyは、航空宇宙、自動車、ヘルスケアなど、さまざまな業界向けにバイオミメティクスに基づくイノベーションを支援するフランスのスタートアップである。同社は、植物、鳥、陸上、海洋生物などの自然からインスピレーションを得て、新しい製品、プロセス、コーティング、または材料の創造を可能にしている。これらのソリューションは、より高い抵抗力、柔軟性、軽量性、さらには空気力学、グリップ力、温度調節力などを取り入れている。


米国のAIスタートアップであるUnanimous A.Iは、鳥や魚、蜂などが群れをなして意思決定を行う方法を模倣した群知能(Swarm Intelligence)を採用しており、複雑なクラウドソーシングプロセスを市場リサーチや病気の診断、未来予測などに活用している。同社は、オスカー受賞者、TimeのPerson of the Year、ドナルド・トランプ氏の100日後の支持率などの予測に成功したことで知られている。


Gloweeは、バイオミミクリーとバイオテクノロジーを組み合わせて、自然から直接得られる照明エネルギー技術を開発している。この照明は発光バクテリア(細菌)から発想を得ており、生きている生物から発光バクテリアを取り出すのではなく、バクテリアの発光をコントロールしている遺伝子コードを、人間も持っている腸内細菌に適用し栄養分を混ぜたジェルに住まわせることで、連続3日間光らせることに成功している。同社は、この照明によって全世界の電力使用を19%減らせると試算している。

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