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SW 223 - CES 2025

Roger Yee

今回のSeattle Watchでは、1月7日から1月10日まで米国ラスベガスで開催されていたテックイベント「CES 2025」のハイライトを紹介したいと思います。昨年に引き続き、AIトレンドが衰えることはなく、生成AIはAgentic AIやPhysical AIなど次のフェーズに進んでいます。また、ウェアラブルの分野でもユニークな製品が登場し注目を集めていました。

 

Webrainでは、毎年1月上旬に米国ラスベガスで開催されているCESについて、Seattle Watchで取り上げています。2022年は「人間拡張」(Human Augmentation)、2023年は、「ウェルビーイング」と「モビリティ」、そして2024年は「AI」の分野で興味深い製品やサービスが登場していました。(下記から、過去3年のCESを取り上げたSeattle Watchをご覧いただけます)


今年のCESは、NVIDIAの創業者兼CEOであるJensen Huang氏による基調講演で幕を開けました。NVIDIAは、半導体メーカーではあるものの、GPUの提供だけでなく、機械学習モデルの開発からデータセンターの設計まで、AI領域の全てにおいて主要技術を供給する「AIファクトリー」を目指しています。この戦略が功を奏しており、2025年1月時点での同社の時価総額は約3.37兆ドルで、Microsoft、Alphabet(Google)、Amazonを抜いて、世界2位(1位はAppleの3.46兆ドル)になっています。


Huang氏は、AIの進化について、「画像、言葉、音を理解する知覚 AI」 に始まり、テキスト、画像、音声を作成する「生成 AI」 が登場し、それがAgentic AI(自律的に状況を判断し、意思決定や提案を行うAI)、そして最終的にはフィジカルAI(物理的な環境で自律的に判断・行動できるAIシステム)に向かっていると述べた上で、複数の新製品を発表しています。


GeForce RTX 50 シリーズ

ゲーマー、クリエイター、開発者向けの最新GPUである「GeForce RTX 50シリーズ」が発表されました。同製品は、Blackwellと呼ばれるアーキテクチャを搭載しており、ゲームやクリエイティブ制作において、ニューラルレンダリング(AI を活用してレンダリングの性能・効率を高める)が可能となり、よりリアルなグラフィックスが得られます。また、このシリーズは、DLSS 4(Deep Learning Super Sampling 4)と呼ばれる機能(AIを使用して低解像度の画像を高品質にアップスケーリングし、処理負荷を軽減しながら非常に高い画質を実現)を最大限に活用できるように設計されています。上位モデルのGeForce RTX 5090 と GeForce RTX 5080 が 1 月 30 日に、下位モデルのGeForce RTX 5070 Ti と GeForce RTX 5070 は 2 月に発売予定で、ノート PC 用の GPU も 3 月に発売される予定です。


Project Digits

NVIDIAは、GB10 Grace Blackwell Superchipという新しいチップを搭載した個人向けの小型高性能コンピュータ「Project DIGITS」を発表しました。同製品は、AIモデルの訓練と実行に必要な計算を高速化するように最適化されており、大規模なAIプログラムを処理できるように、128GBの統合メモリと最大4TBのストレージも搭載されています。Project DIGITSは、すべての開発者がローカルマシンでAI開発を行えることを目指しており、家庭やオフィスの標準的な電源で使用可能です。同製品の価格は3,000ドルからで、5月に販売開始予定となっています。


Agentic AI Blueprint and Orchestration

2024年までは生成AI(Generative AI)が主流でしたが、2025年にはAgentic AI(あらかじめ行動を指定しなくても、タスク管理や計画能力があるため、長期にわたり一貫して目標達成に貢献する柔軟な行動を取ることができる自律的なAI)が台頭し、次の10年間でオフィスワークの最大70%を自動化するだろうと予測されています。また、Huang氏は、「今後、あらゆる企業のIT部門が、Agentic AIの人事部門となるだろう。つまり将来的には、IT部門が大量のAgentic AIを維持、育成、導入、改善していくことになるだろう。」と述べています。(現在の人事部門が人間の従業員の採用や育成を担当するように、IT部門がAgentic AIの導入、トレーニング、運用の最適化を管理するようになるという意味)


このような背景の中、NVIDIAは、CrewAIDailyLangChainLlamaIndex、そしてWeights & Biasesといったパートナーとともに、企業が自動化されたAIアプリケーションを構築できるツールキット「Agentic AI Blueprint」を発表しています。この製品を使用すると、カスタマイズされたAgentic AIを簡単に作成し、企業のワークフローを自動化することができます。例えば、PDFから重要な情報(画像・テキスト・表)を取り出し、ポッドキャスト(音声コンテンツ)に変換したり、動画検索および要約したりするAgentic AI などがあります。そして、パートナー企業たちは、これらの複数のAgentic AIが協力して作業するのを管理、監視、調整するために設計された高度なシステムである「Agentic AI Orchestration」も用意しています。


フィジカル AI を加速させるCosmos

Huang氏は、「AIの次のフロンティアはフィジカルAIである」と述べています。フィジカルAIとは、AIを物理的な世界に組み込んで、リアルタイムで動作する自動運転車(AV)やロボットなどのシステムやプロセスに対応できるようにする技術を指します。このフィジカルAIの開発を加速させるため、同社はNVIDIA Cosmosと呼ばれる「World Foundation Model」(世界基盤モデル)を発表しました。このモデルは、AIが現実世界の物理的な環境を学習し、適応するためのプラットフォームであり、物理世界に基づいたシミュレーションをリアルタイムで行うことで、AIが物理法則を取り入れ、現実世界に即した判断を行うことを支援します。例えば、現実の道路状況や物理法則を学習し、運転判断を行う自動運転車のAIモデルや、ロボットが物理的な環境において物体を持ち上げたり移動したりする動作を最適化するためのAI開発の加速が期待されています。


ここまではNVIDIAを中心にAI関連の発表を紹介してきましたが、後半では、今年のCESで発表されたユニークなガジェットをいくつか取り上げます。今年のウェアラブル分野では、スマートグラスやAIグラスが特に注目を集めたほか、視覚、聴覚、触覚、味覚といった五感のデジタル化に関連する技術も数多く登場しました。


.lumenは、視覚障がい者向けのヘッドセット「.lumen Glasses」を展示しました。同製品は、軽量で頭に装着できるデザインが特徴で、内蔵されたRGBカメラと深度センサーが周囲の状況をリアルタイムでスキャンし、障害物や移動可能なルートを特定する。そのデータを基に、ヘッドセット内側の複数のハプティクスセンサーが触覚フィードバックを額に伝え、「進むべき方向」を案内してくれる。ヘッドセットにはスピーカーが内蔵されており、音によるナビゲーションも可能だが、視覚障がい者が安全歩行に集中できるよう、インターフェースは触覚フィードバック9割、音声支援1割の構成になっている。


Mudraは、ジェスチャーコントロールを可能にするウェアラブルデバイス「Mudra Band」と専用アプリの「Mudra Link」を展示しました。Mudra BandはApple Watchに装着するリストバンド型デバイスで、手や指を使ったタッチレス操作を可能にする。同製品には内蔵センサーが搭載されており、手首や手の筋肉が動く際に発生する微弱な電気信号を検知することで、ユーザーのジェスチャーを認識する。Mudra Linkは、認識された特定のジェスチャーを、音楽の再生・停止、スライドの操作、通知の確認、さらにはスマート家電のコントロールの操作に割り当てることができる。


アイウェアメーカーのEssliorLuxotticaは、アイウェア型補聴器「Nuance Audio」を展示しました。同製品は、スタイリッシュなフレームを採用するスマートグラスで、補聴器を付けることに抵抗感のある軽度・中程度の難聴を持つユーザーの聞こえをサポートする。ビームフォーミングに対応する6つの高性能マイクが搭載されており、マイクで集音した人の声、または環境音を耳もとでブーストして再生することで聴覚を支援する。また、専用のモバイルアプリやハードウェアリモンからマイクの指向性、サウンドのブースト強度を選択でき、本体のスマートグラスは1回のフル充電から約4時間連続して使える。


エレキソルトスプーンhttps://electricsalt.shop.kirin.co.jp/)

日本のビール・飲料メーカーのKIRINは、電気で塩味を感じさせる「エレキソルトスプーン」を発表し人気を博していました。同製品は、食品を通じて微弱な電流を舌に流し、塩味の基となるナトリウムイオンを舌に引き寄せることで、食べ物をより塩辛く感じさせる仕組みになっている。電流の強さは4段階で調整可能で、減塩食品の塩味やうま味を増強する効果がある。同社は、高血圧などで塩分を控えたい人でも、食事を楽しみながら生活習慣の改善を目指せると述べている。


Nike x Hyperice (https://hyperice.com/nike/)

スポーツ用品メーカーのNikeは、リカバリーガジェットを開発するHypericeと共同で、ウォームアップとリカバリーを促進するNike x Hypericeブーツを開発しています。同製品は、足と足首を温め、ダイナミックなエアコンプレッションマッサージを提供する。熱とコンプレッションはシューズのボタンを押すことで3段階調節でき、アスリートの動き、パフォーマンス、⾃然で素早いリカバリーをサポートする。また、同社らは、Nike x Hypericeベストも開発しており、熱電クーラーによって瞬時に加熱・冷却ができ、ウォームアップやクールダウンの際にアスリートの体温を調整できる。ベストは、エアブラダーと圧⼒センサーでサーマルモジュールを内側に押し込むことで⾝体にフィットし、加熱・冷却効果を最⼤限に⾼める。


CESは、もともとConsumer Electronics Show(家電見本市)として知られていましたが、2018年以降、主催者であるCTA(全米民生技術協会)は、イベント名を「CES」とし、Consumer Electronics Showとして紹介しないよう公式に発表しています。その背景には、CESが単なる最新家電やガジェットの発表の場を超えて、AIをはじめとするテクノロジーがどのように社会を変革し得るのか、各社がビジョンを提示し、参加者がそこからインスピレーションを得る場へと進化していることがあります。


この変化を象徴するように、会場内の展示以上に、NVIDIAのCEOによるAIの未来を描いた基調講演や、Delta AirlinesのCEOであるEdward Bastien氏が語った顧客エンゲージメントの未来についての講演に注目が集まりました。来年のCESでは、どのようなテクノロジーの未来が描かれるのか、フィジカルAIの進化の次はどこに向かうのか?これまでとは異なる新しいアイデアがどれくらい出てくるのか?新大統領の元にはせ参じた米国のテック業界の重鎮がリードする次のイノベーションはどのようになってくるのか?様々な角度から各業界の大手企業が示す未来のビジョンについて、ますます興味深くなる1年となりそうです。

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