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Hideya Tanaka

SW 218 - フードテックをホリスティックな視点で捉える

今回のSeattle Watchでは、フードテック市場の最前線を見ていきます。10月末に「Smart Kitchen Summit Japan」が開催されるなど、日本でも関心が高まっており、世界各地で食のイノベーションハブが誕生しつつあります。

 

フードテックは日々成長を続けています。民間調査会社のStatistaによると、2022年のフードテックの世界市場規模は2,607億7千万ドルであり、2028年までに3,600億米ドルを超えると予測されています。この市場の成長要因には、世界的な食糧需要の増加、フードロスなどの社会問題への関心、より持続可能な食料システムへのニーズ、そして健康や環境に配慮した食品へのニーズの高まりなどが挙げられます。Webrainでは、定期的にフードテックに関連したトレンドを調査しており、過去にいくつかのレポートを発行しています。


  • #225 – Alternative Food Sources

  • #219 - Flavor Tech: Marriages of Flavors and Tastes

  • #215 - Edible Intelligence: Data-driven AgriFood Revolution

  • #202 – Plant-base Foods and Clean Meat

  • #200 – Beyond Taste as We Know It


フードテックの進化は目まぐるしく、最前線の情報を追いかけるには世界中で開催されている主要なフードテックイベントやイノベーション拠点を訪れることが求められます。ここ数年で注目されているフードテックイベントには、米国のシアトル発の「Smart Kitchen Summit」、スペインのバスク州ビルバオで開催されている「Food 4 Future」などがあります。


今年6月に開催されたシアトルのSmart Kitchen Summitの様子は、過去のSeattle Watchで取り上げているので、ぜひこちらを参照してほしいですが、もう一つのフードテックイベントであるスペインのFood 4 Futureも今年4月に開催されています。同イベントでは、482人の登壇者らによって、食産業におけるAI、オートメーション、DX、ロボティクス、アグリテックなどのセッションが行われ、国内外から287社、約1万人の参加者が参加しています。


Food 4 Futureでは、食の世界にディスラプティブなアプローチを提供する企業を表彰するFoodtech Innovations Awardsがあり、今年は次のようなスタートアップが特に高い評価を受けています。


Alcheme Bioは、Cellular Flavoringと呼ばれるフレーバー最適化プラットフォームを開発している。同社は、独自のアプローチでAIと機械学習を活用して、培養培地、食品組成、風味の間の関連性をマッピングし、細胞が自然な風味を表現するように培地サプリメントをバイオエンジニアリングしている。同プラットフォームは、代替食品における風味と栄養を最適化する方法に革命をもたらしており、研究開発にかかる時間とコストを大幅に削減している。


Agricolusは、イタリアのペルージャに拠点を置くスマート農業スタートアップで、データ収集と分析の最先端技術により、シンプルで使いやすいアグリテックツールによって、農家や農業経営者をサポートし、農業を最適化することを目指している。同社は、精密農業アプリケーションで構成されるクラウドプラットフォームを開発しており、意思決定支援システム、予測モデル、スマート病害虫防除、リモートセンシングなど、あらゆるニーズに対応する包括的なソリューションを提供している。


Genbiomaは、スペインのナバラ地方に拠点を置くバイオテックスタートアップで、マイクロバイオームを活用した製品の開発と商業化に取り組んでおり、代謝異常の調整や健康改善を目指している。同社は、腸内細菌叢の研究を通じて、糖尿病、心血管リスク、肥満などの予防に役立つ自然な栄養ソリューションを提供している。特許取得済みのプロバイオティクス菌株Pediococcus acidilactici(pA1c®)およびそのポストバイオティクス版(pA1c®HI)は、「Reglubetic®」および「Reglubetic®HI」というサプリメントとして提供されており、プレ糖尿病や妊娠糖尿病などの異なる糖尿病プロファイルに対応して、増加し続ける糖尿病への対策に貢献している。


また、食のイノベーションハブとして知られるのが、バスク州サンセバスチャンにある学術機関「Basque Culinary Center(BCC)」で、2009年に設立されたBCCは、欧州初の食に特化した4年制大学で、調理技術に加え、テクノロジーやサイエンスなど多角的な視点から食を学ぶことができる先進的な学術機関です。また、企業や世界中のシェフと連携して、さまざまなサービスや製品を創出するイノベーション機能も備えています。BCCには、料理を経営、科学、その他の学問と関連付けるという理念があり、大学のカリキュラムでは、1〜2年生で調理を学び、3〜4年生でサイエンス、生物学、マネジメントなどの研究に取り組む構成になっており、すべてがガストロノミー(美食学)に結びついています。


BCCの他にも、オランダには、アムステルダム近郊に位置する「Food Valley」(食品関連企業、大学、研究機関が集積したエリア)があり、米国では、MISTA(スイスのGivaudanを中心に立ち上がった食品業界向けのイノベーションプラットフォーム)やCulinary Institute of America(料理界のハーバードと呼ばれる独立した非営利の専門大学で、世界最高レベルのプロフェッショナルな料理教養と技術教育を提供)、Kitchen Town(マーケティング、商品開発、生産販売、経営などの支援に必要な各種設備、専門性の高い人材、幅広い知見を有するシリコンバレー最大規模のフードテックインキュベーター)などが注目を集めています。


このような海外のフードテックの潮流の中で、株式会社UnlocX代表であり、日本のフードテックの第一人者である田中宏隆氏は、前述のSmart Kitchen Summitの日本開催に尽力し、日本をフードイノベーションの目的地化することを目指しています。そして7回目の、SKS JAPAN 2024が10月24日~26日の3日間にわたって東京の日本橋で開催されました。


同イベントでは、国内外から集った約100名の登壇者による44のセッションが行われました。オープニングセッションでは、米国で有名なフードテックメディア「The Spoon」の創設者であるMichael Wolf氏が登壇し、世界のフードテックのトレンドなどが語られました。同氏は、生成 AIの登場はフードテックにも大きなインパクトを与えるとし、「新しいフルーティーなフレーバーや、新しいフローラルなフレーバーを作りたいと指示するだけで、AIが分子バランスと構成要素の観点から得られたレシピを吐き出してくれる。これは、本当にエキサイティングで、こうした自然言語処理モデルとコンピュータービジョンモデルを使用すれば、新しいヒューマノイドロボットの構築を手助けすることができるだろう。」と述べています。また、「発酵のグローバル化と日本からの貢献」、「スマートキッチンの最先端」、「ウォルトン・ファミリー財団が目指す再生農業の未来」、「食領域のグローバル人財をどう育成するか」(弊社代表の岩崎も登壇)などの興味深いセッションが催されました。


農業(AgTech)、食品開発(Food Science and Development)、リテール(Retail Tech)、レストラン(Restaurant Tech)、デリバリー(Food Delivery and Logistics)、キッチン(Kitchen Tech)、ヘルスケア(Health and Wellness Tech)など、生産から消費(Farm to Table)、そして一人ひとりの健康に至るまで、非常の幅広い領域にこのフードテックはまたがっており、このエコシステムを支えるための幅広い技術が含まれています。


そのため、フードテックをホリスティック(包括的)な視点で俯瞰して見ることはより一層重要になり、このエコシステムを形成する一員になることの意義も高くなってくるでしょう。先ほど紹介したSKS Japan 2024では、このエコシステムを一枚の俯瞰図にまとめた「Food Innovation Map v4.0」を公開しています。この表の一番下には「人材の発掘・育成」が横たわっており、食のグローバル化とともに、世界で活躍できるタレントの育成は急務だと感じます。そして、この食のエコシステムの形成や発展に、皆さんの企業がどのように貢献できそうか、一度考えて見る良い機会ではないでしょうか?

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