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  • David Peterman

Issue 194 - X(旧Twitter)はどこに向かうのか?

テクノロジー関連のニュースを追っている人であれば、すでにお気づきだと思いますが、X(旧Twitter)は、イーロン・マスク氏による買収と、彼が推し進めた数々の変化によって、毎週のようにニュースの見出しを飾っており、2023年に最も話題になった企業の1つになっています。今回のSeattle Watchでは、X(旧Twitter)のこの1年を振り返り、今後の方向性を探っていきます。

 

2006年に創業したX(旧Twitter)は、2023年には5億2,800万人のユーザーを抱えるまでに成長し、2028年には6億5,200万人に達すると予測されています。特にX(旧Twitter)は日本での人気も根強く、国内人口の64.1%が利用しています。


Twitterは世界第14位のソーシャルメディア企業であったにもかかわらず、収益化に苦戦しており、2013年の株式公開以来、2年間しか黒字を計上していません。また、他のソーシャルメディアプラットフォームと同様に、同社はコンテンツのモデレーション(投稿されたコンテンツをチェックし、ヘイトスピーチなどの不適切なものを削除する作業)が不十分だったこともあり、事態が悪化した2021年の連邦議会襲撃事件を受けて、ドナルド・トランプ前大統領のアカウントに対し、「さらなる暴力の扇動の危険性がある」として同氏のアカウントを凍結しました。(現在は凍結解除)


2022年に入り、イーロン・マスク氏は市場価値を大幅に上回る440億ドル(約5兆9000億円)という驚異的な価格でTwitterを買収すると発表しました。法的なやりとりが続いた後に、同社は売却され、2022年10月にマスク氏と彼のパートナーが新しいオーナーとなりました。マスク氏は買収総額の大部分を自身のテスラ株で賄いながら、サウジアラビアの投資家アルワリード・ビン・タラール王子を含む19人の投資家たちから130億ドルを集めました。


マスク氏は、Twitterがあまりにも多くのコンテンツを検閲しており、このプラットフォームに言論の自由を取り戻すべきだとして、「今のままでは、会社は繁栄することも、(言論の自由という)社会的要請に応えることもできない。(中略)Twitterは民間企業として生まれ変わる必要があり、この会社には並外れた可能性がある。私はそれを解き放ちたい。」と主張しており、買収完了後からTwitterでは急ピッチで変革が進み始めました。ここでは、そのハイライトをいくつか紹介したいと思います。


  • マスク氏は従業員の半数にあたる約4,000人を即座に解雇。その後、同社が約束した退職金を支払わなかったとして多くの訴訟が起こされ、その中には5億ドル(750億円)以上の支払い義務があるとするものもあった。 https://www.thestreet.com/technology/twitter-to-x-the-complete-timeline-of-elon-musks-twitter-purchase

  • 投稿されたコンテンツの管理やモデレーションを担当するチームのほとんどが解体され、これまで禁止されていた事項の多くが解除された。(トランプ氏のアカウントの凍結解除を含む)。その結果、プラットフォーム上でのヘイトスピーチが著しく増加したことが観測され、Center for Countering Digital Hateの研究者は、イスラエルとハマスの戦争に関する200以上のヘイトスピーチに関する投稿が、利用規約に抵触しているにもかかわらず、削除されていないと指摘。 https://www.theverge.com/2023/11/14/23960430/x-twitter-ccdh-hate-speech-moderation-israel-hamas-war

  • Twitterには、認証バッジ(有名人や公的機関、団体などの著名なアカウントが「本物」または「公式」であるというアカウントの信憑性を保証するシステムで、アカウント名の隣に付与されている青色のチェックマーク)というプログラムがあった。しかし、このプログラムは改変され、現在では月額8ドルを支払えば、誰でも同じチェックマークを受け取れるようになった。 https://www.theverge.com/2023/11/14/23960430/x-twitter-ccdh-hate-speech-moderation-israel-hamas-war

そして、最も大きな変化は2023年4月にマスク氏が社名をTwitterからXに変更したことでしょう。Xという文字は、以前からマスク氏にとって魅力的であり、もともとは同氏が創業したPayPalにつけたかった名前だと言われています。この文字には、「ソーシャルメディアサイト以上の役割を果たすEverything App(あらゆる機能をもつアプリ)」を作るというマスク氏の大きな目標が反映されており、同氏は「これからの数ヶ月で、私たちは包括的なコミュニケーションと、包括的な金融サービスの機能を追加する。(中略)Twitterという名前はその文脈では意味をなさないので、この青い鳥に別れを告げなければならない。」と述べています。


ブランディングの専門家たちは、マスク氏が「Twitter」という貴重な知的財産を捨ててしまうことに衝撃を受けています。青い鳥のアイコンは世界的に認知されており、「ツイート」などの用語は一般的な語彙にもなっていおり、専門家たちは、この名称変更によって企業価値が一瞬にして40億ドル(約6兆円)から200億ドル(約30兆円)も吹き飛んだと見積もっています。Siegel & Galeのブランド・コミュニケーション・ディレクターのSteve Susi氏は「Twitterが現時点での市場価値を獲得するのに15年以上かかっているのを踏まえると、ブランド名としてのTwitterを失うことは経済的に大きな打撃である。」と指摘しています。


広告主もすぐに同社の今後の動向に不安を感じ、広告売上は前年から59%も激減しています。広告売上は同社の収益の90%を占めているため、これは特に大きな問題です。2021年にTwitterは51億ドルの売上を計上していましたが、2022年には44億ドルに減少し、2023年は30億ドルにとどまる見込みです。そして、最近行われた従業員への株式付与で明らかになったのは、会社の評価額が40億ドルまで落ち込み、マスク氏がオーナーになってから1年間で90%減少したという事実です。


このような混乱の中で、X(旧Twitter )に似たアプリが数多く登場しています。例えば、MetaのThreadsは、Instagramとの緊密な統合のおかげもあり、わずか数ヶ月で1億3,700万人のユーザーを獲得し、史上最も急成長したアプリとなっています。また、Mastodon(https://mastodon.social/explore)とBluesky(https://bsky.app/)はオープンソースのプラットフォーム上に構築されており、Twitterを離脱したユーザーを惹きつけています。また、特定のニッチな分野に注力しているサービスもあります。例えば、ユーザーがプライベートなイベントを計画し、人々を招待できるPartiful(https://partiful.com/)などが出てきています。


今後、Xはどうなっていくのでしょうか?マスクとパートナーの投資家たちは、世界を支配することを望む「Everything App」の創造を目指しながら、この巨額の損失を乗り切ることを望んでいるのかもしれません。実際、Threadsを除くと、新興のソーシャルメディアプラットフォームはいずれも、Xを直ちに脅かすようなユーザー数を獲得していません。


金融の世界には「過去の実績は将来の結果を示さない」という言葉があります。これは言い換えれば、過去に成功したからといって、明るい未来が保証されるわけではないということであり、ソーシャルメディア企業には特にこの言葉が当てはまると思います。Friendster、Tribe、MySpaceといった企業がトップの座を保っていられたのは短く、多くは次の打ち手を間違え、または競合に追随されて今は消えてしまっています。果たして、マスク氏はXの市場価値の 90%を失った今、最後の10%を有効に活用することができるのでしょうか?



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