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  • David Peterman

Issue 182 - アスリートを支えるシアトル企業

シアトルは、AmazonやMicrosoftなどのテック系企業が集積するAI首都として知られていますが、実はスポーツチームを多く擁するスポーツが盛んな街としても有名です。今回のSeattle Watchでは、アスリートのパフォーマンス向上を支援するスポーツテック関連の企業を紹介していきます。

 

前回のSeattle Watch(こちら)では、フロー状態(Flow State)について紹介しました。フロー状態は、目の前のタスクに没頭して集中するあまり、時間感覚や雑念が消えて生産性が高まる現象です。そして、これは単なる感覚ではなく、脳内でさまざまな神経伝達物質が活発になるリアルな変化を伴う現象であることを説明しました。


今回まとめたWebrainレポートでも書きましたが、フロー状態は、アスリートがよく経験する「ゾーンに入る」感覚ともよく似たものです。スポーツ心理学の専門誌であるSport Psychology Todayは、「ゾーンとは、あらゆるスポーツのアスリートが最高の能力を発揮するために究極まで集中した状態である。」と説明しています。野球の場合だと、「ヒットを打つ」や「盗塁をする」といったプレーを成し遂げるために、選手の心が完全につながっている状態を示し、この時、選手の注意は現在(今ここだけ)に向けられ、脳は目の前のタスクを成功させるのに役立つ思考やイメージだけを処理しています。フロー状態をゾーンの一種ととらえている専門家もいますが、どちらも自分の能力を最大限に引き出す(ピークパフォーマンス)という点で共通した感覚なのです。 https://www.sportpsychologytoday.com/youth-sports-psychology/understanding-the-zone-in-sports/


シアトルはスポーツの街としても有名で、シーホークス(アメフト)、マリナーズ(野球)、サウンダーズ(サッカー)、シーウルブス(ラグビー)、レインズ(女子サッカー)、ストーム(女子バスケットボール)といったメジャーリーグのプロチームを擁しています。また、シアトルに新しく加わったクラーケン(アイスホッケー)は、2シーズン目にしてプレーオフに進出しています。このようにスポーツが盛んなシアトルには、アスリートのパフォーマンス向上を支援する企業や研究機関が数多く存在しています。


ワシントン大学にあるPerformance Research Labは、アスリートの体の動きの研究や、彼らの身体活動をより正確に評価・モニタリングするため方法を開発しています。これらの研究は、アスレチックトレーニングや怪我の予防・リハビリを支援するツールの開発につながることが期待されています。この研究室では現在いくつかのプロジェクトが進行中です。その中には、ストレス骨折の検出に使用できるスマホアプリの開発があり、このアプリでは足や足首の問題を迅速に診断できるようになります。また、数年前のプロジェクトでは、センサーと複雑な分析手法を使って、野球の投手の身体的な動きを細かくモニタリングし、怪我になる可能性が高いと判断された時にアラートを出すことにも成功しています。


サッカーチームや選手のパフォーマンス向上を支援する技術開発に取り組むSeattle Sport Sciencesもシアトル企業の1つです。同社の2Victa Training Systemという製品はトレーニング用にサッカーボールを発射する装置です。この装置は、ボールのスピード、距離、弾道、スピンなどの細かい設定が可能で、選手自身が集中的にトレーニングすることができます。また、ISOTechneというシステムは、フィールド上の選手とボールの動きを追跡するために、さまざまなセンサーを使用して、スピードと正確さに関する客観的なデータを収集します。


またシアトルには、世界最高峰のデータドリブンの野球選手育成機関と自称するDriveline Baseballもあります。同社のモーションキャプチャー技術では、打撃と投球の両方を向上させるための分析を行うことが可能です。また、PlyoCare(ピッチングメカニックを向上させるウェイテッドボール)やパルスセンサーなど大谷選手を含むメジャーリーガーたちが実際に使用しているトレーニングギアを販売しています。さらに、コーチやトレーナーがトレーニングのスケジュールを立てたり、目標を設定したり、投球や打撃のセンサーが収集したデータを活用するためのアプリケーションのTRAQを提供しています。


スポーツは非常に大きなビジネスであり、チケット販売、メディア権、スポンサーシップ、グッズ販売などをすべて含めると、2022年の北米での収益は805億ドル(約11兆円)という驚異的な数字になっており、2023年には831億ドルに成長すると予想されています。スポーツやスポーツテクノロジーの市場では、まさにお金がお金を呼び寄せるといった現象が起きています。 https://www.statista.com/statistics/214960/revenue-of-the-north-american-sports-market/


シアトルは、航空宇宙、コンピューターソフトウェア、Eコマース、バイオテクノロジーなど、技術革新の長い歴史があり、その中で蓄積された技術力や集約された人材がスポーツという新たな市場を開拓していると言えます。皆さんが応援しているチームや選手たちの素晴らしいパフォーマンスの裏側では、今回紹介したようなシアトルのスポーツテック企業の存在があるかもしれません。



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