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  • Hideya Tanaka

Issue 149 - CES 2022から探る今後のテック市場

今回のSeattle Watchでは、今月の初旬にラスベガスで開催されたCES(Consumer Electric Show)について紹介していきたいと思います。毎年興味深いテクノロジーが登場するCESですが、今回はWebrainでもメガトレンドとして追いかけている五感のデジタル化や人間拡張(Human Augmentation)の領域に関連する企業が多く登場していました。

 

世界最大級のハイテク技術見本市であるCES(Consumer Electronic Show)が、2022年はラスベガスの会場とオンラインでのハイブリッド形式で開催されました。しかし、新型コロナウィルス(オミクロン型)の感染拡大を受けて、来場者数は約4万人と2020年の約17万人から大幅に減少し、出展側も2020年の出展社数が約4,500社だったのに対し、2022年は約2,300社にとどまっています。

https://www.usatoday.com/story/tech/news/2022/01/08/ces-2022-attendance-covid/9146164002/


しかし、アマゾンやグーグル、マイクロソフトなどの大手テック企業が出展を見送ったことで、今回のCESは、知名度の向上を狙うスタートアップ企業にとっては好機となったようです。スマートダッシュカメラを出展したNextbaseのチーフマーケティングオフィサーであるRichard Browning氏は、「通常CESに来ると大手テック系の企業に注目が集まるが、今年は多くの大手テック系企業が出展していないこともあり、自社の新製品を予想以上にメディアに取り上げてもらうことができた。」と述べています。

https://edition.cnn.com/2022/01/08/tech/ces-2022-announcements/index.html


今年のCESでは、ソニーのPlayStation VR2(Play Station5で動作するVRシステム)やNVIDIAのOmniverse(メタバース開発ツール)、TCLのLEINIAO AR(ARスマートグラス)など、XRやメタバース関連の発表が相次ぎました。また、自動車分野ではGMがChevrolet Silverado EVを発表したり、ソニーがEV事業化の検討を発表するなど、EV(電気自動車)にも多くの注目が集まりました。これらの領域は以前から世界中で大きな注目を集めており、これまで話題になっていたコンセプトがより現実味を帯びてきたと言えるでしょう。


また、近年Webrainではメガトレンドとして五感のデジタル化や人間拡張(Human Augmentation)の領域を追いかけており、嗅覚、触覚、味覚のデジタル化や知能増幅(Intelligence Augmentation)に関するレポートを発行しています。今年のCESでも、これらの領域に関連する企業が多く登場していました。


例えば、OrCamは、視覚障がいのある人の自立した生活を支援するウェアラブル音声デバイスを発表しており、眼鏡に取り付けたこのデバイスが自動で文字を読み上げたり、近くの人の顔や商品を識別してくれます。またRazerは、音声増幅技術を搭載したマスク型のゲーミングデバイスを発表しており、マスクを着けたままでもクリアに声を届けたり、声を変調させることもできます。

https://www.engadget.com/engadget-best-of-ces-2022-200032353.html


また、日本からもShiftall(パナソニックの子会社)がVR内で寒さや暑さを体験することで没入感を高めるウェアラブル冷温デバイスを発表したり、山形発のスタートアップ企業のImuzakが独自のマイクロレンズ技術を活用して、タッチ型の3D浮遊映像システムを展示しています。

https://www.ubergizmo.com/2022/01/best-of-ces-2022/

https://interestingengineering.com/13-of-the-strangest-innovations-from-ces-2022


これらのソリューションは、本格的な普及にはまだ時間がかかると想定されますが、人間の身体、知覚、存在、認知といった能力拡張を支援することで、私たちの生活をより豊かにしてくれる可能性を秘めています。


ただ、忘れてはいけないのはテクノロジーは常に人間を中心とする(Human-centered Technology)という考え方であり、テクノロジー自体が必ずしも、人間の幸せに寄与するとは限らないということです。私たちが本当の意味でテクノロジーを自己の一部やその延長線上にある存在として認識し得るのかによって大きく変わってくることだと思いますが、逆にテクノロジーによる能力拡張に頼ることなく、自分の力だけで何かを遂行するということ自体がこれまでのように自己肯定感や効力感につながり、幸せに寄与するという考え方もできるかもしれません。

 

<ピックアップしたCES 2022の出展企業>

OrCam (https://www.orcam.com/ja/)

OrCam MyEye PROは、視覚障がいのある人向けのウェアラブル音声デバイスで、軽量で小型のため眼鏡フレームに磁石で取り付けることができる。このデバイスは、書籍、メニュー、看板などの文字や、スマホやPCのデジタル画面上の文字を瞬時に読み上げたり、対面している相手の顔を認識したり、商品のバーコード、紙幣、色を識別することで、より自立した生活を支援している。

Razer (https://www2.razer.com/jp-jp)

Razerは、音声増幅技術を搭載したマスク型のゲーミングデバイスであるRazer Zephyr Proを開発している。マスク下部の2つのスピーカーから音を出力することで、マスクを着けたままでも声がこもらず、1メートル先ま自分の声を60デシベル増幅できる。また、アプリを使って声を変調する機能や、空気交換システムを搭載することでマスク本来の機能も確保している。

Shiftall (https://en.shiftall.net/)

Shiftall(パナソニック子会社)は、ウェアラブル冷温デバイスであるPebble Feelを開発している。手のひらサイズのこのデバイスは専用のシャツと組み合わせることで、首元の部分を瞬時に冷却・加熱することができる(25℃の環境で9℃から42℃まで)。専用のSteamVR用アドオンを利用することで、メタバース空間でも寒さや暑さを体験することが可能で没入感が高まる。

Imuzak (http://imuzak.co.jp/)

Imuzakは、バイオミメティクス(生物の構造や機能、生産プロセスなどから着想を得る技術開発手法)を取り入れたナノテクノロジー企業である。同社は、ドライバーへの警告や案内がハンドルから立体映像として飛び出して空中に浮遊するディスプレイシステムを開発している。眼鏡型デバイスなどは不要で、小型スクリーンをハンドルに埋め込み、その上に同社のマイクロレンズを配置することで、触ることのできる3D浮遊映像を表示させることができる。




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