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Issue 145 - 新アリーナの命名権を巡るアマゾンの誓い

今回のSeattle Watchでは、シアトルに新しくできたプロアイスホッケー(NHL)のアリーナを巡るアマゾンの気候変動への誓いについて紹介していきます。また、末尾では11月開催のセミナーについてのご案内をしております。(今年のシアトルウォッチの発行も残りわずかとなってきました。過去のシアトルウォッチをご覧になりたい方はこちらからご覧になれます)

 

皆さんもご存知かと思いますが、米国のプロスポーツはそれぞれの街が中心にフランチャイズが成り立っています。シアトルでもイチロー選手が活躍したメジャーリーグ(MLB)の「マリナーズ」、プロフットボール(NFL)の「シーホークス」、プロサッカー(MLS)のサウンダース、かつて渡嘉敷選手が所属していた女子プロバスケットボール(WNBA)の「ストーム」、宇津木選手や川澄選手が所属していた女子プロサッカー(NWSL)の「レイン」が本拠を構えてますが、今年からプロアイスホッケー(NHL)の「クラーケン」が新たに加わりました。参考までに、この「クラーケン(Kraken)」とは北欧の伝説に登場する海の怪物で、巨大なタコのように描かれることが多い空想上の生き物です。


これらのプロスポーツのフランチャイズに密接に関係しているのが、スタジアムやアリーナーの命名権であり、一般的に地元の大手企業の名前が冠されています。例えばマリナーズのスタジアムは長年に渡って地元の保険会社Safeco社の名前をとって「セイフコ・フィールド」として親しまれてきましたが、2019年のシーズンから大手携帯電話事業者でシアトルの隣町のベルビューに本社があるT-Mobileが命名権を獲得し、現在は「T-Mobile Park」と呼ばれています。


そして新しく加わったクラーケンの本拠地となるアリーナの命名権を獲得したのがシアトルを代表するIT企業のアマゾンです。しかもアマゾンはその命名権に社名を使わず、「Climate Pledge Arena(気候への誓約アリーナ)」というあまり親しみのない名前を付けて地元の人々を驚かせました。そこで今回はこのアリーナの命名権の裏側にあるアマゾンの思惑について簡単に紹介したいと思います。


まずアマゾンが昨年、2040年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロ化する自主的誓約「Climate Pledge」を発表したことに全ては由来しています。今回の命名について同社の元CEOのジェフ・ベゾス氏は、「気候変動への対策が今すぐ必要であるということを、常に思い出させる存在」としてこの名称を採用したとコメントし、さらに同氏は、「(Climate Pledge Arenaを)世界初の二酸化炭素排出実質ゼロと認定されるアリーナとし、運営やイベントでは廃棄物を出さず、雨水を再利用する製氷システムでNHLで最も環境に優しい氷を作る。」と続けています。 https://www.geekwire.com/2021/geek-street-heres-seattle-kraken-fans-think-amazon-climate-pledge-arena/


実際にこの名前に相応しいアリーナにするために、改築前のアリーナの屋根を新施設でも再利用し、ソーラーパネルからの電力のみで運営し、販売される食品の75%が地元産で、余った食品は食料支援プログラムに寄付されます。さらに使い捨てのプラスチックは使用禁止となり、施設内にはリサイクルボックスと生ごみ処理機が配備されます。そしてアイスホッケーに不可欠の氷はすべて雨水を利用しています。また、このアリーナはWNBAのストームの試合も開催され、試合のチケットを保有する観客が環境負荷の大きい自家用車を使わないように、公共交通機関を無料で利用できるような施策も行うとしています。


スポーツ施設の命名権を購入するとそこに社名を入れることが当たり前だったこれまでの手法に対し、会社の新たなビジョンを盛り込み、広報や社会貢献の領域を大きく超え、地域の人々や関連企業とどのような未来を創造するかを宣言する場として利用することが今回のアマゾンのアリーナ命名の本当の狙いではないかと言われています。


以前のシアトルウォッチで、地域とのつながりを大切にすることでファンの獲得に成功したシアトル・サウンダースのマーケティングを紹介した記事に触れたことがあります。さらに、EスポーツをテーマにしたWebrain Reportでもスポーツビジネスにおけるフランチャイズ制の仕組みについても紹介しましたが、このような過去の動きから見ても、今回のアマゾンのプロスポーツとの関わり方はとても斬新に見え、今後の米国の巨大市場であるスポーツマーケティングに新風を吹き起こすかもしれません。 https://azrena.com/post/13608/


Webrainでは、気候変動への対策に特化したテクノロジーとしての新しいトレンドであるClimate Techについても近く動向調査を予定しています。「気候への誓約アリーナ」という奇妙なアリーナ名が今後どのように日本で評価されるか、ぜひ注目してみてください。

 

<スポーツビジネスと気候変動に関する近年の動向>

気候アクションのためのスポーツ原則

国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局は2018年の12月に複数の国際スポーツ団体と共同で、Sports for Climate Action Principles(気候アクションのためのスポーツ原則)を発表している。この原則は、スポーツ団体、チーム、アスリート、ファンが一丸となってパリ協定の目標達成に向けた意識向上と行動を促すためのものである。加盟団体には、国際オリンピック委員会(IOC)や国際サッカー連盟(FIFA)など17機関が含まれている。

プレミアリーグ・サステナビリティ・テーブル

国連が支援するSport Positive Summitは、英国のプレミアリーグで最も環境に配慮しているサッカークラブをランキングにしたEPL Sustainability Table(プレミアリーグ・サステナビリティ・テーブル)を発表している。このランキングは、各クラブの試合開催に伴う環境への影響や気候変動の取り組み(クリーンエネルギーの利用、持続可能な輸送、廃棄物の削減など)などをいくつかのカテゴリーに分けて収集したもので、2020年はトッテナムがこのランキングで一位を獲得している。

Jリーグと環境省の提携協定

Jリーグと日本の環境省と、2021年6月に気候変動対策などに取り組む協定を締結している。同リーグは創設以来、各クラブの本拠地をホームタウンと呼び、それぞれの地域社会への貢献を進めてきた。この協定では、SDGsの観点での地域の活力を最大化することを目的とし、脱炭素社会、循環経済、分散型社会の移行を進めるための行動変容を促す活動での協力(地域の循環共生圏の構築、スタジアムやゲーム運営でのサステナビリティ向上など)を掲げている。



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