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  • Hideya Tanaka

Issue 143 - The Future of Death Tech

今回は、以前紹介した「Longevity Economy: New Normal for Seniors」というレポートに関連して、「死」の考え方のアップデートが起き始めている状況やDeath Techという新しいテック領域について見ていきたいと思います。また、後半では弊社が登壇する今月開催のセミナー情報も記載しております。

 

2020年に「Longevity Economy: New Normal for Seniors(長寿経済: シニアにとってのニューノーマル)」というレポートを発行しましたが、その中で、シニア世代の長寿化と併せて、これまでの「⽼化」に関する消極的なイメージが時代遅れになろうとしていることを解説しました。これに関連して、今回のSeattle Watchでは「死」の考え方のアップデートが起き始めている状況について考察をしていきたいと思います。


歴史を振り返ると、時の権力者や独裁者は不老長寿を求めるという普遍性があるようです。中国では、始皇帝が永遠の命を望んで、方士の徐福に命じて不老不死の薬を探させたり、ルーマニアの独裁者であったニコラエ・チャウシェスクは、アンチエイジング治療のための国立加齢科学研究所を設立したりしています。 https://www.news-postseven.com/archives/20170803_581189.html?DETAIL


この流れは今の時代にも引き継がれており、グーグルの創設者であるラリー・ペイジ氏は2013年に老化研究に特化したCalicoという企業を設立し、最近では、アマゾンの創設者であるジェフ・ベソス氏も、細胞を若返らせるリプログラミング技術に挑むAltos Labに出資しています。また、老年学者のオーブリー・デ・グレイ氏は寿命脱出速度(Longevity Escape Velocity)という考え方を提唱しています。これは「私たちが1年生きる間に、科学によって寿命が1年以上延びる」という考えで、老いや死が科学技術の発展によって克服できるようになる未来を予測しています。 https://www.technologyreview.com/2021/09/04/1034364/altos-labs-silicon-valleys-jeff-bezos-milner-bet-living-forever/


しかし、たとえ不老不死が現実となったとしても、本当に永遠に生き続けたいかどうかは個人の選択に委ねることになるのではないでしょうか。また、これからの時代は、死をいたずらに恐れるのではなく、どのタイミングでどのように迎えたいかという「選択」をするものになるのではないかと思います。この点で「死」は人間にとってより肯定的な意味をもつのではないでしょうか。


ドイツの哲学者であるハイデガーは、「人は、いつか必ず死ぬということを思い知らなければ、生きているということを実感することもできない。」と述べていますが、人は自らの死に対峙することで本質的な生の意味を理解し、初めて「人間らしさ」を獲得するのかもしれません。


実際に、「Death Tech」と呼ばれる市場が世界で台頭しつつあります。この市場のスタートアップ企業は、人々がよりよく死を迎えることを支援したり、周囲の人々が死別の悲しみを乗り越えることを支援しており、例えば、Cake社は、終末期計画のワンストップサービスを提供しており、葬儀の指示からNetflixなどのオンラインアカウントの閉鎖まであらゆる計画を支援しています。また、Coeio社は、遺体から放出される環境有害物質を、特殊なキノコを用いた埋葬用スーツによって分解することで、環境に配慮した死の実現を支援しています。さらに、イスラエル発のEmpathy社は、遺族による大変な事務手続きや死別の悲しみを乗り越えることを支援するAIプラットフォームを開発して、遺族に寄り添うことを目指しています。 https://www.smartcompany.com.au/business-advice/innovation/death-industry-innovation-new-life-market/


人の死に関するビジネスを行う企業は嫌われるのではないかという批判もあるかもしれませんが、この市場はイノベーションがまだ及んでいない最後の消費者セクターとも呼ばれており、テクノロジーの支援を求めている人々のニーズは多くあると思います。


最近では、タブーとされていた死をよりオープンなものとして捉えようとするデス・ポジティブ・ムーブメントも高まっています。これは「死」を自らの選択をもとにデザインすることがウェルビーイングにつながるという考え方につながっているのではないでしょうか? Webrainでは、こうした人間の価値変容に伴う市場の台頭にも今後も注目し続けたいと思っています。

 

<Death Techのスタートアップ企業>

アドバンスケアと終末期計画のためのデジタルプラットフォームであるCakeでは、ユーザーが、「葬儀を⾃分の⼈⽣のお祝いにしたい」、「遺⾔や死後における指⽰がある」などの質問に「はい」または「いいえ」で回答するだけで、Cakeが回答を分析して、ユーザーが死ぬまでにしておくべき意志決定や購⼊すべきサービスの特定を支援する。同サービスの利⽤は無料であるが、Cake はこのプラットフォームでユーザーに紹介した企業から⼿数料と紹介料を徴収している。


Coeioは、Infinity Burial Suitという生分解性の埋葬スーツを開発している。このスーツには特殊なキノコと微生物が組み込まれており、遺体から放出される環境有害物質を無害化しながら植物に栄養を届けることができる。このスーツの価格は1500ドルで、環境意識が高く自然に配慮した死を望む人々に受け入れられている。同社は遺体を覆うシュラウド(白布)やペット用の製品の販売も行っている。

Empathyは、遺族が行うべき手続きを支援するAIプラットフォームを提供している。同サービスでは、死去にともなうさまざまな手続きや作業を段階ごとにガイドすることで、遺族の負担を解消する。これらには、葬儀の手配、死亡届などの必要書類の入手、遺書や遺品の整理、資産や税金に関連する手続き、また遺族のカウンセリングなども含まれる。ユーザーは、最初の30日間は無料でサービスを利用でき、それ以降は65ドルの料金を払えば永続的にサービスを利用できる。


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