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Issue 132 - Flavor Tech: 風味と味覚のマリアージュ - Part 1

今回のシアトルウォッチでは、最新のレポート「Flavor Tech:風味と味覚のマリアージュ」に関連して、レポートの本編では詳細に触れることができなかった風味に関するエピソードを紹介したいと思います。前編の今回はフレーバーの巨大企業コカ・コーラの過去と現在のマーケティング戦略について紹介します。


 

皆さんもご存知のように米国では大人から子供まで炭酸飲料のコーラはこよなく愛されています。そしてコーラを生産しているのがコカ・コーラとペプシコーラという世界トップシェアの清涼飲料メーカーです。両社は1970年代には過酷な販売合戦を繰り返し、比較広告がテレビコマーシャルで許されている米国では、お互いの商品を非難するようなコマーシャルが日常的にTVで放送されてました。その激しい競争の中で生まれたのがペプシコーラの「ペプシチャレンジ」というキャンペーンで、消費者が目隠ししてコーラを飲み、美味しい方を選ぶとそれがすべてペプシコーラというコマーシャルでした。このキャンペーンの結果、ペプシのシェアは伸び、コカ・コーラ社内でも同じ飲み比べをするとペプシを選ぶ社員が多かったという結果も相まって、これまでのコカ・コーラの風味に対し疑問が生じる結果となったのです。


そこで登場したのがカンザス計画というマーケティング戦略で、これまでの風味を変えてペプシコーラの味に近づけました。1985年4月に満を持して発表されたのが「ニュー・コーク」でしたが消費者の反応は期待に反して惨憺たるもので、新しい味に対する抗議が殺到し3カ月で計画は中止、以前と同じ風味のコカ・コーラを「コカ・コーラ・クラシック」として販売することになったのです。このマーケティング戦略の失敗でコカ・コーラは初めてペプシに売上を抜かれました。

https://ja.wikipedia.org/wiki/カンザス計画


この失敗以来、コカ・コーラでは消費者の声に常に耳を傾ける姿勢が重視され、新しい風味を販売する場合もそれまでの風味を維持しながら品種を増やす戦略に変わりました。今回のレポートでは最近のコカ・コーラのAI戦略にフォーカスして、グローバル・ディレクターのグレッグ・チャンバース氏のインタビューを紹介をしています。

https://artificialintelligence-news.com/2019/05/07/how-coca-cola-is-using-ai-to-stay-at-the-top-of-the-soft-drinks-market/


同氏は、「我々にとってAIは全ての戦略の基礎になっている。なぜなら我々は世界200カ国以上もの国々でソフトドリンクを販売しており、マーケティングもそれぞれの地域によって変える必要があり、そのためには大量のデータを収集し分析し、各地域で売れる商品を特定しなければならない。これはAIが無ければ不可能と言える作業である。」と述べています。さらに同社では自動販売機のデザインについても場所や地域によって変えており、例えばショッピングモールではカラフルで楽しそうなデザインを施し、スポーツジムでは達成感溢れるデザインを施しています。これもAIによるデータ分析からそれぞれの場所にいる人々のムードを解析して行われているのです。


さらにコカ・コーラでは自社の製品がソーシャルネットワークでどのように話されているかを分析するため、世界中に37カ所のソーシャルセンターを設置し、セールスフォースのプラットフォームを使って様々な消費者の声を分析しています。そこでは消費者がコカ・コーラ製品について話題にするための仕組みが用意され、消費者とのポジティブなエンゲージメントを可能にしているのです。かつてはマーケティングの専門家がマニュアル作業でその仕組みを考えていたのですが、最近では自動処理に成功しています。


我々一般の消費者にとっては、「たかがコーラ」という見方もできますが、世界中の人々の喉を長年に渡って潤し続けている巨大企業コカ・コーラにとっては、「されどコーラ」であり、最新のデジタル技術を駆使して消費者の期待に応え続けることで今の地位を維持することを可能にしているのです。今回のFlavor Techのレポートでは、風味に関する様々なデジタル技術を紹介しながら、風味に関わる香料や食品メーカーの絶え間ない努力、さらにスタートアップや異業種からの参入動向について紹介をしています。


 

<食や風味のトレンドをAIで予測している企業>


Coca-Cola (https://www.cocacola.jp/)

コカ・コーラでは、AIが全ての基盤の戦略となっており、AIを用いた商品開発や顧客とのエンゲージメントを実施している。例えば、Cherry Spriteというソフトドリンクは、顧客が自由に飲み物を調合できるセルフサービスのソーダ・ファウンテン(アメリカのファーストフード店などにある清涼飲料水を供給する装置)から収集したフレーバーの組合せデータに基づいて開発されている。


Spoonshot (https://spoonshot.com/)

Spoonshotは、AI と食品化学(フードサイエンス)の知見を活用することで食品や飲料産業における消費者の味の好みや食のトレンドを予測している。同社では、予測された食のトレンドを正しく理解することで顧客の商機につながると考えている。同社のサービスを利用している食品配達業者やカフェテリアといった顧客は、それぞれの顧客の好みの食べ物を正確に理解することができる。


Analytical Flavor Systems (https://www.gastrograph.com)

Analytical Flavor Systems が提供するGastrograph と呼ばれるアプリケーションは、一人ひとりの味の好みをマッピングし、各自の好む風味や好みを理解するように設計されたAI プラットフォームである。同プラットフォームでは、ターゲット層のセグメントを作成し、各セグメントの好みの味をモデリングすることで、味覚の違いを認識させる。同社は、このサービスによって消費者がどのような味を求めているかを食品メーカーが正確に理解することができると述べている。

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