SW 240 – 米国に挑戦する日本発アートテック企業
- Webrain Production Team
- 3 時間前
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今回の Seattle Watch では、日本発アートブランド「GAAAT」がシアトルで挑んだアート販売展の舞台裏をお届けします。シアトルという街が持つ「カルチャー×テック」の土壌と見事に共鳴したこの取り組みは、日本企業が海外に挑む際のヒントとなる好例と言えるかもしれません。
Webrainでは、10月23日(木)から26日(日)まで、シアトルで開催された日本の新興アートブランド「GAAAT(ガート)」による海外巡回販売展の現地サポートを行いました。同社は、独自の技術とクリエイティビティを強みに、デジタル(2次元)とフィジカル(3次元)の境界を横断し、新たな体験価値を生み出すアートブランドです。アーティストだけでなく、イラストレーター、IPホルダー、アパレルブランドなど多様なパートナーとの協業によって、新しいアート体験を創出しています。

今回の巡回展では、1990年代から語り継がれるサイバーパンクの金字塔「攻殻機動隊」のSTAND ALONE COMPLEXシリーズとコラボレーションし、その世界観を2.5次元の立体表現による「メタルキャンバスアート(MCA)」として再構築しました。MCAの特徴は、デジタルアートをメタル製キャンバスに描くことで2次元と3次元を融合する独自の表現にあります。デジタルデータを32層に分解し、各層を精密にコントロールすることで立体感や奥行きを生み出し、さらに日本独自のレリーフペインティング技術によって細部まで美しく仕上げています。メタル素材ゆえに湿気や紫外線の影響を受けにくく、長期的に美しさを保てる点も特徴です。


Webrainは、シアトル会場における広告出稿、会場設営、スタッフィング、当日の接客・販売、物流支援などの支援を行いましたが、巡回はシアトルに限らず、台湾、パリ、シンガポール、ロサンゼルス、シカゴの計6都市で展開され、初日から行列ができた会場もあるなど、販売面でも数十点を超える実績を上げ、予想を大きく上回る好調なスタートとなりました。シアトルでは、事前予約(RSVP)が800人以上に及び、米国3都市の中で最も大きな売上を達成しました。


GAAATが巡回先としてシアトルを選んだ背景には、シアトルならではのデモグラフィックがあります。All About Cookiesの2025年調査では、シアトルは「全米で最もオタク的な都市」にランクインしています。同調査では、1)「高度学位を持つ人口の割合」(“nerd” という言葉は元々、特定のテーマについて熱心で博識な人を指しており、その定義に最もよく当てはまるのは、特定分野を扱う修士号や博士号を持つことと言える)、2)「コミックブックショップおよびゲームストアの人口比」、3)「年間1人あたりの図書館訪問数」、4)「STEM職環境」(STEM職(科学、技術、工学、数学)は一般的に「よりオタク的」な職業と考えられている)、5)「発行された特許数の人口比」(オタク的な素質が現れる一つの方法は発明であり、特定の分野に熱心で専門知識を持つ人々は、その分野の特定の問題やニーズを理解し、新しい解決策を思いつく能力に優れている)、6)「ファンおよびコミックコンベンションの人口比」、7)「オタク的用語の平均検索量」という指標をもとに、このオタク度を算出しています。
実際、シアトルにはAmazonとMicrosoftの本社があり、STEM職の需要は全米でもトップクラスです。また、米国最大級のアニメ/コミックコンベンションの1つとして知られる「Emerald City Comic Con」や「Sakura Con」も開催され、毎年数万人を惹きつけています。今回のアート展でも、ポケモンのタトゥーを入れた方や多数のアニメグッズを身につけた方、AmazonやMicrosoftの社員証を下げて訪れる来場者が多く来るなど、データが裏付けられる結果となりました。
また、「攻殻機動隊」には、電脳化(≒脳直結インターフェース/BCI)、義体化(≒サイボーグ・人工臓器)、並列化(≒分散型ネットワークによる意識共有/マルチエージェントAI・クラウド同期・エッジAI)といった現実世界で研究・実装が進む技術が多く登場しており、シアトル地域の特徴とも重なる、非常にタイムリーなIPであることが分かるかと思います。
アートは高価格帯の商材であるため、購買層の経済力も重要です。シアトルでは、世帯年収が20万ドル以上の世帯が全体の28.6%と高い(全米平均の約1.5倍)というデータもあり、その条件をクリアしています。また、シアトルは2023年の1年間で3,700人のミリオネア(資産100万ドル以上の富裕層)を新たに増やし、総数は54,200人に増加しています。さらに、シアトル市民の約14人に1人がミリオネアであり、サンフランシスコ湾岸地域に次ぐ全米2位という興味深いデータもあります。
GAAATは2021年創業のスタートアップであり、今回のようなテック×アートの新しい表現を受け入れる「アーリーアダプターの存在」は不可欠です。その点、シアトルは人口の約40%が30歳未満と若い世代が多く、新しい文化を受け入れる土壌があります。また人口の約20%がアジア系で、日本文化との親和性も高く、日本の新興ブランドが挑戦しやすい地域性があります。こうした要素が組み合わさったことに加え、「攻殻機動隊」というテクノロジーの未来を描いたIPをAIブームの今というタイミングで選んだ洞察力、そして何よりもGAAATの皆さんの積極的なマーケティングやプロモーション、そしてホスピタリティ溢れる丁寧な接客などの努力が今回の成功につながったと言えます。
一方で、トランプ関税の影響もあり、日本から米国への輸入販売のハードルはかつてより高くなっています。その状況下でも米国で勝負することを決めたGAAATのリスクテイクの姿勢は、まさにアントレプレナーシップそのものです。裏話にはなりますが、GAAATの創業者の方はWebrainのBoot Camp(次世代リーダー向けの新規事業開発プログラム)の卒業生でもあり、その経験やつながりが今回の挑戦に生きていることを大変嬉しく感じています。今後、GAAATに続いて、日本のIPやテクノロジーを武器に米国へ挑戦する企業が増えていくことを願うばかりです。そして、Webrainとしても、そうした挑戦に伴走できれば幸いです。
Webrain Production Team
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