新型コロナのパンデミックが発生してから1年近くにもなりますが、日本でも米国でも相変わらず厳しい状況が続いています。今回はこのパンデミックの中で実際の店舗における小売販売についてのお話をしたいと思います。
皆さんはリテール・セラピー(Retail Therapy:小売心理療法)という言葉をご存知でしょうか?2014年にミシガン大学の心理学部の教授が実験を行ってその効果を科学的に証明して生まれた言葉ですが、これはオンラインでブラウジングをしながら行うショッピングと比べて、実際の店舗でのショッピング(自分の気に入ったものを選択し買い物をする行為)は人々をより幸せな気持ちにさせてくれるというもので、悲観的な気持ちからの回復という点においては40倍も高い効果があるとのことです。 https://www.glamour.com/story/retail-therapy-is-real-shoppin
なぜミシガン大学でそのような実験をしたのか不思議に思いませんか?その背景には当時のオンラインショッピングの急成長があります。アマゾンを筆頭に人々がオンラインショッピングの便利さを体感したことで、店舗販売の業績が大きく下がり始め、伝統的な小売店舗販売の必要性さえ疑問視されるようになったのです。この研究では、オンラインショッピングとの対比をしながら、実際の店舗で買い物の選択を行う行為が、自分が置かれた環境に対して個人的にコントロールしようという感覚を回復し、悲しみを減らすことに役立つことを証明したのです。 https://www.glamour.com/story/retail-therapy-is-real-shoppin
その後2016年12月にはAmazon Goがシアトルにオープンし、レジのない自動決済のコンビニということで世間を大きく騒がせました。Webrainでは、2017年の7月に「Retail Tech Revolution」というレポートで当時の小売販売のトレンドについて詳しく紹介しています。この時Webrainが注目したのは、技術革新によって店舗運営を自動化しスピードや便利を追求していく動きと、逆に消費者が時間を掛けて商品を購入するという2つの方向でのショッピング体験のトレンドです。特に後者の取り組みは、リテール・シアター (Retail Theater) という言葉でも表現されており、店舗自体に劇場のような要素を取り入れ、その場でしか味わえない様々な体験をすることで購買に繋げるというアプローチが主流になっていったのです。 https://www.imagineps.com/engage-shoppers-retail-theater/
しかしこのような小売の必死の対抗策に追い打ちを掛けたのが新型コロナのパンデミックでした。どんなに魅力的な劇場を作ってもお客さんが来てくれなくては意味がありません。昨年の春のロックダウンでは報道されたように全米の多くの都市で小売店が閉店しました。ロックダウンの解除後はソーシャルディスタンシングを確保しながら営業を続けていますが、ショッピングを楽しむという状況にはまだ戻っていません。2021年はコロナ禍の影響もあり、米国だけでさらに1万店舗の小売店舗が閉店するとの予測も出ています。 https://www.cnbc.com/2021/01/28/10000-stores-set-to-close-in-2021-covid-keeps-pummeling-retailers.html
Webrainでは、コロナ渦でのリモート販売のトレンドを昨年8月に「The New Normal: The Social Distancing Economy」というタイトルで紹介しています。特に対面販売が中心の家具、自動車、不動産などの業界において、先端技術を駆使し、生き残りをかけた新しい販売手法について詳しく触れています。
今回のパンデミックによって人と人との接触が制限されることで、人間がいかに社会的な動物であり、我々の経済活動が人との触れ合いをベースに成り立っていることを再認識された方も多いかと思います。医学的な終息にたどり着く前に、社会的な終息を求めてしまうという問題を指摘する声も出てきています。イェール大学の歴史学者、ナオミ・ロジャース氏は「極度の疲労やフラストレーションといった社会心理学的な問題から、もう普通の生活に戻って良いはずだ。」と人々が求める声が強くなり、公衆衛生当局の医学的な終焉の宣言を待たずに、州知事が制限を緩めてしまう可能性を伝えています。外出を自粛して感染を抑えることも大切ですが、人々が幸福感や達成感を感じる機会を制限しすぎると社会的な副作用が想像以上に大きくなる気がしてなりません。 https://www.nytimes.com/2020/05/10/health/coronavirus-plague-pandemic-history.html
<コロナ渦での対面販売の新しい形を実践している企業>
BoConcept (https://www.boconcept.com/en-gb/)
高級家具ブランドであるBoConceptでは、買い物客がバーチャルでショールームを見たり、商品の詳細を3Dで多角的に確認したり、家具のサイズが合うかを測定したり、さらにウェブサイトの各ページにある「お問い合わせ」のメニューから直接スタッフに質問することができる。また、SkypeやZoomなどのウェブ会議用のアプリケーションを利用して、バーチャルでのインテリアデザインサービスを提供している。
Autotrader (https://b2b.autotrader.com)
AutotraderのDealer Home Servicesは、車のディーラーや個人販売者が各地域で車を探している見込み客と直接会うことなく、オンラインでつながることを支援している。売り手は、ビデオチャットで対話しながら見込み客の質問に答えたり、自宅での試乗をスケジュールすることができる。
Invision Studio (https://invisionstudio.com)
Invision Studioは、バーチャルな没入型の購買体験を見込み客に提供しようとしている企業に対して、360度のバーチャルツアー、特にMatterportの3Dカメラシステムを利用した3Dツアー、建築写真撮影や航空写真撮影のサービスを提供している。同社は、高精細なウォークスルーのバーチャルツアー、ドローンを使った航空写真や動画を利用しており、最近ではVRも導入している。
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