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  • Hideya Tanaka

SW 205 - Freight Tech and Reverse Logistics

今回のSeattle Watchでは、貨物不況の中でも活躍を見せているFreight Tech(フレイトテック)と、Reverse Logistics(リバース・ロジスティクス)について見ていきたいと思います。日本では、物流・運送業界の2024年問題が盛んに議論されていますが、米国では、物流業界の非効率や透明性を高めるような技術、そして返品文化の影響もあって発達しているリバース・ロジスティクスを支えるサービスが登場しています。


 

米国では、貨物不況(Freight Recession)が昨年から起きており、今年中はその影響が続くと予測されています。貨物不況を引き起こしているのは、消費者の購買力減少や製造業の新規受注の減少によって貨物需要が落ち込んでいることが主な要因です。Arkansas Trucking Associationの代表であるShannon Newton氏は、「トラック・輸送・ロジスティクス業界のコストは高止まりしており、そのコストを補うだけの需要がない。保険料、設備費、人件費といったコストの高騰は継続的な課題である。」と述べています。


さらに、金利上昇やマクロ経済の先行き不透明感からベンチャーキャピタルの投資が落ち込んでおり、物流業界のスタートアップにも逆風が吹いています。例えば、運送会社と荷主をオンラインでマッチングするトラック版のUberのようなサービスを展開して注目を集めていたConvoyが事業閉鎖に追い込まれ、同様のサービスを展開しているTransfixもダウンラウンド*を余儀なくされています。

(注釈* ダウンラウンド:投資ラウンドにて前回の評価額よりも低い額で資金調達を行う)


しかし、Fontinalis PartnersのパートナーであるChris Stallman氏は、「アーリーステージでの資金調達には活気があり、依然として投資を集めている。」と述べており、このような貨物不況の中でも優れたスタートアップは生き残り、それが将来的な競争上の優位性をもたらすと楽観視しています。実際、前述したConvoyやTransfixの他にも、さまざまなFreight Tech(フレイトテック)が台頭しています。


Freight Techとは、物流業界の効率性や透明性を高めるためのAIやIoTなどのテクノロジーで、コンサルティングファームのRoland Bergerでは、FreightTechを次の3つのセグメントに分類しています。

  1. インテリジェンス: ロジスティクスの複雑さとネットワークベースの性質は、データ主導の意思決定と最適化のための無数の機会を提供する。このセグメントには、データを取得して分析するためのツールなどが含まれる。

  2. 自動化:生産性の向上とロボットの低価格化・長寿命化が相まって、ロジスティクスにおけるロボットシステムの利用が促進されている。このセグメントのソリューションは、手作業を減らすことに主眼を置いている。

  3. 統合:プラットフォーム型のツールの人気が高まっているが、複数のツールやそこに関連するステークホルダーを統合するという課題に直面している。このセグメントでは、プロセスのデジタル化によってステークホルダー間の透明性とコミュニケーションを高めることに主眼が置かれている。


下記では、最近注目を集めているFreight Techのソリューションやサービスを紹介しています。


貨物輸送をワンストップで管理するAmazonのサービス。荷主企業の出荷プロセスを合理化・簡素化するために設計された統合プラットフォームを提供しており、出荷のスケジュール、リアルタイムでの追跡、書類の管理などを全て1か所で簡単に行うことができる。


小中規模の事業者も含めた、あらゆる規模のEコマース事業者に、オンラインストアの在庫保管から、注文に応じた商品選別、梱包、配送までを提供するエンドツーエンドのフルフィルメントサービスを提供する英国のスタートアップ。同社は、倉庫管理のために設計したモジュラーアプローチを採用し、各顧客にハブと呼ばれる顧客別の倉庫内専用スペースと、顧客企業のビジネスと製品を熟知しているハブマネージャーを割り当てることで、運営モデルを柔軟に変えられる体制をとっている。


自動運転トラック技術を開発する米国と中国に拠点を置くスタートアップ。自動車メーカー、チップメーカー、運送会社と提携して半自律型自動運転のトラック開発を行っており、同社の技術はレーダー、LiDARセンサー、カメラを組み合わせ、周囲を360度見ることを可能にし、この技術を搭載した無人トラックは数百メートル先の車両を追跡することもできるようになる。


Logistics-as-a-Serviceを提供するニューヨークのスタートアップ。ショッピングセンターやモールの余剰スペースを中距離およびラストワンマイルの物流ハブとして活用し、最終消費者までの配送距離の短縮とスピードアップ、コスト削減、炭素排出量の削減を提供している。


貨物市場のダイナミックプライシングインフラストラクチャを提供するフロリダのスタートアップ。集約された市場データと顧客の過去のデータを高度な機械学習技術と組み合わせることで、クライアント企業の個々の売買行動に特化した短期的な予測運賃市場価格を提供し、貨物ブローカーや3PLの収益性向上を支援している。


また、物流に関連して最近注目を集めているのは、リバース・ロジスティクス(静脈物流や還流物流とも呼ばれる)の分野です。リバース・ロジスティクスとは、顧客側から生産者側へと流れる物流のことで、顧客からの返品対応や、廃棄物やリサイクル品の回収や再利用・再販売などの場面で利用されています。米国のリバース・ロジスティクスの市場規模は2023年に1,532億4,000万ドルで、2024年から2030年までの年平均成長率は8.6%と予測されています。


特に米国では返品文化が強く、National Retail Federation(全米小売業協会)では、2022年の1年間で返品された商品の総額は8,160億ドル(約106兆円)にのぼると推定しています。これは、同年の小売販売総額の約16%が返品されたということになり、この返品率は2年前の約10%から上昇しています。そのため、米国では、余剰在庫や返品された商品をAmazonや小売店舗から大量に買い取って、それらを割引価格で販売するbin storeと呼ばれる小売店が増えています。


2014年には物流大手のFedExが小売業界などの大手企業に返品処理サービスを提供していたGENCOを買収しており、2023年にも競合であるUPSが不良品や使用済み製品などの回収・返品事業を手掛けるHappy Returnsを買収するなど、リバース・ロジスティクスの業界再編がすでに進んでいます。


大手企業の他にも、Eコマースブランド向けに返品管理ソフトウェアを提供しているLoop Returns は、返品コストの最適化や収益の維持、返品ロスの防止を支援しています。また、G2 Reverse Logisticsは、REAP(Reverse Execution Analytics Platform)というAIを活用した返品管理プラットフォームを通じて、顧客の返品を処理するための最も収益性の高い経路を自動的に特定したり、返品された商品の再販を促進するための分析をしたりする機能を提供しています。


Freight TechやReserve Logisticsは、近年の生成AIのような脚光は浴びていないかもしれませんが、私たちの便利な生活を支える重要なインフラの役割を担ってくれています。近年では、北米を中心としたグローバル市場への展開を目指す日本企業も増えてきています。セールスやマーケティングはもちろんのこと、ロジスティクス周りでも、テクノロジーを駆使して他社に負けない体制を整えることが、グローバル進出成功のカギになってくるのではないでしょうか?弊社でも、北米進出や北米でのセールス・マーケティングを、現地のB2BからB2Cまでのエキスパートたちを束ねてご支援する体制を作っております。いつでもお問い合わせください。


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