Seattle Watch

今回は、エリクソン・コンシューマーラボが発表した2030年までのコンシューマートレンドのひとつInternet of Senses (IoS)後編になります。前回の視覚や聴覚に続いて、嗅覚、味覚、触覚のデジタル化を過去のレポートと共に振り返ります。さらにもうひとつの重要な感覚である我々の知覚についても少し触れたいと思います。

Issue 130 The Internet of Senses (5感のデジタル化)- Part 2

視覚や聴覚のデジタル化はイメージしやすいと思いますが、嗅覚についてはどうでしょうか?リラックスできる匂いやスパイスの香りをインターネットを経由して共有できる時代に入っています。ここ10年に渡り様々なスタートアップ企業がこの分野にチャレンジし、そして消えていきました。もちろん今も多くの企業が市場を広げるために努力しています。特に嗅覚は記憶に最も直結している器官とも言わており、匂いによる刺激によって思考や感情だけでなく、行動にも変容を起こすことができるのです。Webrainでは2019年2月号で “The Scent for New Intelligence” というタイトルで嗅覚ビジネスの可能性を深く掘り下げました。


さらに嗅覚と強い関係があるのが我々の味覚です。味覚のデジタル化を調査した際に、大きく注目をしたのが植物性たんぱく質を使った代替ミート市場の成長です。2017年からシリコンバレーやサンフランシスコではテクノロジーを駆使した代替ミートのスタートアップがブームになりました。
https://fortune.com/2017/12/19/silicon-valley-meatless-meat/


当時新しかったBeyond Meat、Impossible Foods、さらにJustという社名も今では日常的に米国のスーパーマーケットで見かけるようになっています。Webrainでは2018年10月号で将来の食品産業の方向性について、“Beyond Taste as We Know it”というレポートで纏めています。さらに最近もこの分野での技術革新について下記の3つのレポートを制作しています。(過去のレポートの一覧と概要はこちらからご覧いただけます)


•    “Plant-base Foods and Clean Meat”
•    “Edible Intelligence: Data-driven AgriFood Revolution”
•    “Flavor Intelligence Technology”


触覚については2013年から追いかけておりますが、新しい人間とマシーンのインターフェース(Human-Machine Interface)を可能にする動きを2016年1月に“AI as Interface -No UI is New UI-“というレポートを制作しています。我々が慣れ親しんでいるキーボードやマウスを使ったインターフェースは、モバイル環境に向いていません。そこで次世代のユーザーインターフェースとして、人間の触感(Haptics)やジェスチャーを使ったコマンド入力が注目されているのです。このレポートのタイトルにもあるように理想的なユーザーインターフェースとはその存在を意識する必要がないもの、つまりNo UIなのです。直感的に触れるようにマシンを操作できることができれば、遠隔医療や教育やトレーニングのあり方が劇的に変わると思われます。


これらの5感と共にWebrainが重要と考えているのが、知覚(Perception)です。なぜならこの知覚こそが長年の経験やトレーニングを経て身に着く貴重なノウハウの塊だからです。たとえば熟練工による研磨技術や経験豊かなエンジニアによる修理技術などを若手に継承することは時間と我慢が必要です。最近のXR(Cross Reality)と呼ばれる技術が目指しているのは、デジタル技術を使った経験や暗黙知の伝承であり、Webrainでは2014年にVRやAR技術と人間の意識の関係性の分析を始め、2017年11/12月号には、“Immersive Business Reality (IBR)”というタイトルでビジネスでの事例について紹介しています。


今後インターネットのさらなる整備や5Gによる低遅延化が進むことで、これまで時間を掛けなければ身につかなかった技能や同じ場所でしか共有できない感動をリモートでもより精緻に体感できるようになるでしょう。このように考えると前回ご紹介したInternet of Senses(IoS)という言葉は、まさに我々の未来の生活を支えるキーワードになるかもしれません。今回のパンデミックの中でリモートでも様々な業務が可能だということを実感している方は多いと思いますが、今後は匂いや感触、経験や暗黙知までもリモートで共有できる世界が訪れるかもしれません。Webrainでは今後も5感のデジタル化について特に注目して調査を続けていきます。


Toshiro Akashi, Editorial Team

<嗅覚、味覚、触覚のデジタル化を支援するプレーヤー>

Symrise with IBM “Philyra” (https://www.symrise.com)
Philyra は、IBM Research AI for Product Composition というマシンラーニング機能をベースに開発されたAI エンジンで、風味・香料メーカーであるドイツのSymrise に新しい香りを開発するソリューションを提供している。このIBM のAI 技術では、何十万もの化学物質の組み合わせと何千種類もの香りの原材料を分析することで、これまで見過ごされてきた香りのパターンや組み合わせを正確に特定することができる。Philyra は、代替原材料と適切な調合量の提案、性別ごとの香りへの反応や嗜好の予測を行うことも可能である。
 

Vivanda (
http://vivanda.com)
Vivanda は、香辛料を扱う企業であるMcCormick から2014 年にスピンオフを果たし、McCormick が手掛けたFlavorPrint 技術で収益を上げることを目指している。FlavorPrint システムは、同社のデータベースにある1 万6,000 の香料と33 の風味、17 の食感、栄養素、原材料を活用して、各食品を構成する成分に基づいて食品を分類することができる。これによって、あらゆる食品のレシピがデジタルの指紋のようにユニークなデータとして作成される。同社の顧客企業はこれらのデータを用いて、パーソナライズされたレシピやメニューの提案を彼らの顧客に提供することができる。
 

Project Soli by Google (
https://atap.google.com/soli/)
Soli というプロジェクトではGoogle のAdvanced Technology and Progress (ATAP)と呼ばれるチームが最先端のジェスチャー認識技術を開発している。このチームではレーダー技術を利用した小型のセンサーをチップに内蔵することでミリメートル以下の精度で指の動きを高速かつ正確にトラッキング出来るようにしている。同社ではこのセンサー技術を使って電子デバイスのデザインを根本的に変革することを目指しており、操作のためのノブやボタンを減らすことでより自然なインターラクションを実現出来ると考えている。