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Hideya Tanaka

SW 215 - 非営利のAIスタートアップの台頭

今回のSeattle Watchでは、非営利のAIスタートアップの台頭について紹介していきます。この動きは、あらゆる組織にとって、経済的利益とソーシャルインパクトの両立がますます求められていることを示唆しているのではないでしょうか?

 

AI-powered nonprofitsと呼ばれる非営利のAIスタートアップ(以下APNs)が台頭しており、教育、ヘルスケア、気候変動など、さまざまな分野でインパクトを与え始めています。Google.org(Googleのフィランソロピー部門で、非営利団体に資金とリソースを提供)では、SDGsに取り組むAI活用事例が2018年以降に300%増加し、AIを活用する非営利団体向けの資金援助プログラムへの応募は600%増加していると報告しています。

  

テック系の非営利団体は、特に珍しい存在ではありません。例えば、Wikipedia(オンライン百科事典)、Mozilla(オープンソースのブラウザなどを開発する団体)、Khan Academy(オンライン学習プラットフォーム)がその代表例です。これらの組織は、信頼性や中立性の確保、インターネットのオープン性の維持、誰もが平等にリソースへアクセスできることなどの信条や社会的使命を重視しています。そのため、営利目的(For-Profit)ではなく、非営利(Non-Profit)または非営利と営利を組み合わせたハイブリッドなスキームを採用しています。

 

 APNsも同様に、AI for Humanity(人類のためのAI)という理念を掲げており、Stanford Social Innovation Reviewでは、AIの活用方法を次の9領域に分けて紹介しています。


  1. リサーチ:膨大な量のデータを分類・分析し、研究開発を加速させるAI。Reboot Rxは、何十万もの研究論文を選別して、がん治療に適したジェネリック医薬品を特定することにAIを活用している。

  2. 整理:大規模なデータセットを整理して関連情報に簡単にアクセスできるようにするAI。Learning Equalityは、AIを活用して大量の教育リソースを各国のカリキュラム基準に合わせて整理しており、ウガンダでは12,000の学習リソースを2,000以上の学習カテゴリーにマッチングしている。

  3. モニタリング:継続的にデータを収集・分析し、リアルタイムの洞察とアラートを提供するAI。WattTimeは、AIを使って膨大な量の衛星画像をモニタリングし、大規模汚染者の温室効果ガス排出量を可視化している。

  4. 評価:ユーザーの入力を自動評価し、適切な推奨を行うAI。Joy Educationは、Virtual Reading Clinicを通じて、読字障がいをもつ子どもの読字能力の能力をAIで診断して、教師や保護者にカスタマイズされた学習プランを提供している。

  5. ナビゲート:学資援助や医療制度の申請のような複雑で多段階のプロセスを理解して、適切にユーザーを導くAI。HERA Digital Healthは、モバイルアプリを通じて、難民が利用可能な医療サービスにアクセスできるように支援している。

  6. コーチ:人間との対話を模倣して特定分野の専門家として機能するAI。Kahn Academyは、AIを活用した無料ティーチング・アシスタントのKhanmigoを提供しており、すべての子どもに各分野の専門家を提供することを目指している。

  7. 翻訳:言語翻訳を改善し、効果的なコミュニケーションを促進するAI。U.S. Digital Responseは、AIを活用した失業保険ツールを提供しており、英語力に乏しい労働者のためにスペイン語の平易な翻訳を提供している。

  8. デコード: 動物の言葉など、これまで理解できなかった情報を解釈するAI。Earth Species Projectは、ディープラーニングを使って言語の意味表現を視覚化し、人間以外の生物のコミュニケーションを解明しようとしている。

  9. プラットフォーム:より多くの非営利団体が独自のAIツールを導入できるようにする支援する。Playlabは、教育者にAIツールを提供し、カスタマイズ可能な独自アプリを作成・共有することを支援している。

 

これらのAPNsがソーシャルインパクトを拡大できるよう支援するアクセラレーターも登場しています。例えば、Fast Forwardは、テック系の非営利団体に特化したアクセラレーターで、2014年以来、102の団体を支援しています。これらの団体は、これまでに1億8600万人以上の人々にインパクトを与え、7億5300万ドルの追加資金を調達することに成功しています。著名なアクセラレーターであるY Combinatorも、2013年から非営利団体との協業を開始し、これまでに30のテック系非営利団体を支援しています。

 

もちろん、テック系の非営利団体には課題も存在します。彼らが直面する大きな課題の一つは、社会的使命を果たしつつ、経済的な自立と成長を追求する必要がある点です。特に資金調達においては、寄付や助成金、ロイヤリティ、パートナーシップといった多様な手段を活用しつつ、支持者コミュニティとの関係を深めていくことが重要です。また、テクノロジーを駆使してコスト削減を図るなど、効率的なリソース管理も欠かせません。

 

 組織体制も重要な課題です。OpenAIは、非営利部門(OpenAI Inc)と営利部門(OpenAI LLC)のハイブリッドなコーポレートガバナンス体制を採用しており、営利部門を非営利部門がコントロールする構造を持っています。同社は自らを「capped-profit company」(利益上限付き企業)と称し、非営利部門が「テクノロジーが人類全体に利益をもたらすことを保証する責務」を負っています。そのため、営利部門の投資家や従業員に還元する利益には上限が設けられています。OpenAIは、人類に奉仕するという使命を遂行する一方で、Microsoftなどの株主にも対応しなければなりません。そのため、共同創業者でCEOのSam Altman氏は、2025年にはOpenAIの体制が変わり、伝統的な営利企業に近づく可能性が高いと述べています。

 

AI-powered nonprofits(APN)を含むテック系非営利団体の台頭は、あらゆる組織にとって、資本主義(経済的利益)とソーシャルインパクト(社会的使命)の間にある緊張関係を今後ますます管理していく必要があることを示唆しています。こうした変化に敏感に気づき、適応していける組織が、今後の社会をリードしていく存在になるのではないでしょうか。

 

 

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