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David Peterman

Issue 186 - 内受容感覚とは何か?

人間にはいくつの感覚が備わっているかご存じでしょうか?近年の研究では、人間には五感を超えた複数の感覚が備わっていることが分かってきています。今回のSeattle Watchでは、私たちの心や体の健康を支える感覚システムとして注目を集めている「内受容感覚」について見ていきます。

 

「直感がする」や「虫の知らせがある」という表現がありますが、その正体は一体何なのでしょうか?一般的には、これまでの経験や常識の行使に起因するものと言われていますが、最近の研究では、「内受容感覚」と呼ばれる感覚システムが関連していることが分かってきています。


私たちは、人間の五感は「視覚」「聴覚」「味覚」「触覚」「嗅覚」の5つの感覚システムから成ることを小学校で学んできたと思います。これは、「重力によってリンゴが木から落ちること」や、「太陽が東から昇ること」と同じように、基本的な真理として教えられてきたことでした。しかし、時が経つにつれて、人間の感覚をたった5つに分類するのは不完全であり、人間の身体が感知できるすべての感覚を説明できないことが分かってきたのです。


Webrainでは、「Beyond 5 Senses」という直近のレポートで、研究者たちがどのようにしてさらに多くの感覚を特定したかについて紹介しています。人間の感覚の数はまだ正確には特定されていませんが、20個前後という説もあれば、78個という説もあります。その中には、暑さや寒さを感知する「温度感覚」、自分の体のバランスや位置を把握する「自己受容感覚」、そして時間の経過を認識する「時間感覚」などが含まれています。


冒頭で紹介した内受容感覚は、英語ではInteroceptionと表現され、Internal(内部)とReception(受容)を組み合わせた造語です。この感覚は、心臓の鼓動や呼吸、空腹感などの身体内部の状態を理解するためのシステムです。身体内部で発せられる信号の多くは、身体の外部で起こっていることにも深く関連しています。例えば、ストレスの多い状況にいると、心拍数が上がり、呼吸が速く浅くなります。


内受容感覚から発せられた信号は、脳の視床を中継して島皮質に伝達されます。脳の深い部分にある島皮質は、全身からの信号を受け取り、それを感情や認知、自己認識をつかさどる脳の他の部分に伝えます。ある研究では、心拍を感知する能力が右前島皮質の灰白質の量に直接関係していることが明らかになっています。 https://neurosciencenews.com/interoception-self-awareness-23472/


身体内部における情報は一方向に流れると考えるのが一般的です。例えば、心が外的なストレスを感じると、それが心拍数や呼吸数の増加という形で身体を反応させていくという流れです。しかし、ケンブリッジ大学の心理学者であるTim Dalgleish氏は異なる指摘をしており、「精神的な要素と身体的な要素があり、その両方が同時に起こっている。」と述べています。これはつまり、身体が心拍数や呼吸を加速させ始めたことによって、私たちは外的なストレスを認識するという逆方向の情報の流れも起きているということです。 https://www.newyorker.com/science/elements/the-paradox-of-listening-to-our-bodies


内受容感覚が正しく機能しない場合、体の機能にさまざまな問題が起きることがあります。その一例が摂食障害です。オクラホマ州タルサにあるLaureate Institute for Brain Researchの精神科医であるSahib Khalsa氏は、摂食障害は、内受容感覚のミスコミュニケーションによって起きていると考えています。例えば、お腹がゴロゴロ鳴るのを空腹ではなく恐怖として誤認識してしまったり、満腹感によって快感ではなく動揺が呼び起こされてしまう現象です。Khalsa氏が行っているユニークな治療法のひとつに、消化器官に届くと振動を発生する小型の電動カプセルを患者に飲んでもらう治療があります。これにより、幻想や誤認識ではない現実の消化器官の感覚を経験する練習ができ、自分の身体をよりよく理解する訓練になると言います。 https://www.newyorker.com/science/elements/the-paradox-of-listening-to-our-bodies


うつ病などの症状も内受容感覚を正しく解釈できないことに関連しています。実際、うつ病の患者は内受容感覚からの信号を処理するプロセスに問題があるという結果が、脳画像を用いた研究によって裏付けられています。これは、うつ病や不安障がいに共通する症状である反復的ネガティブ思考 (RNT) を持つ人に特に当てはまると言われており、Laureate Institute for Brain Researchの主任研究員で、オクラホマ大学健康科学センターの准教授でもあるSalvador M. Guinjoan氏は、「RNTはうつ病再発の可能性を高め、治療後の残遺症状と関連し、うつ病治療の効果がない人にも多く見られ、自殺にさえ関係している。」と述べています。患者の内受容感覚に対してより深い理解を高めることは、そのまま人の生死を分けることにまでつながってくるのです。 https://www.psypost.org/2022/11/highly-ruminative-individuals-with-depression-exhibit-abnormalities-in-the-neural-processing-of-gastric-interoception-64337


このように内受容感覚は、私たちにとって親しみ深い5つの感覚と同じくらい重要なものであると言えます。なぜなら、私たちの心臓、肺、腎臓、腸といった身体の内部が教えてくれる情報を正しく認識して理解することは、より健康な心と体を育てることにつながるからです。今回の「Beyond 5 Senses」というレポートでは、内受容感覚だけでなく、ニューロダイバーシティー(神経多様性)、感覚過敏、マルチセンサリーエクスペリエンス(多感覚体験)など、私たちの感覚に関連するさまざまなトピックを取り上げています。これらは、ウェルビーイングやメンタルヘルスといった分野だけではなく、消費者向けのサービスや体験の開発や、職場での従業員のエクスペリエンス設計においても、さまざまな示唆をもたらしてくれると思います。もし本レポートに興味がある場合は、こちらまでご連絡ください。 https://www.theguardian.com/science/2021/aug/15/the-hidden-sense-shaping-your-wellbeing-interoception



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