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  • Hideya Tanaka

Issue 172 - 2023年の展望

皆さま、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。2023年はインフレや景気後退の流れが続く可能性が高く、我慢の年になるかもしれません。しかし、そのような年だからこそ長期的な目線に基づく投資と、自社や自分の軸、そして志を持ち続けることが大切になってくるでしょう。見えない未来を見通すきっかけの1年になることを期待したいと思います。

 

“Follow the money”という言葉があるように、お金の流れを追ってみると真実が見えてくることがあります。今年最初のSeattle Watchでは、スタートアップ投資やIPO(新規公開株式)に関する動向に触れながら、2023年の展望を考えていきたいと思います。


昨年を振り返ると、2022年はスタートアップ企業にとって厳しい1年でした。インフレの加速や景気後退の流れはスタートアップ企業にも大きな影響を及ぼしており、民間調査会社のPreqinによると、ベンチャーキャピタルの新規取引額はグローバルで1月から11月に前年同期比42%減の2,860億ドル(約39兆1,400億円)で、非常に大きな落ち込みを見せています。この数字は2008年金融危機後の34%減よりも大きくなっており、VCは過去10年にわたって投資を拡大してきましたが、金利上昇で資本コストが高まったことで、潮目が変わりつつあります。 https://www.bloomberg.com/news/articles/2022-12-07/venture-capital-deals-set-for-worst-drop-in-over-two-decades


具体的な影響としては、ダウンラウンド(前回の資金調達時よりも低い株価で株式を発行する資金調達のラウンド)での資金調達を余儀なくされたスタートアップ企業が増え、ユニコーン企業であってもIPO(上場)を先送りする動きが見られました。そのような流れの中で、IPOとM&Aの準備を同時に進めるデュアル・トラック・プロセスと呼ばれるエグジット手法が注目を集めています。

※ デュアル・トラック・プロセス: IPOのバリュエーションをM&Aにおける評価値の下限として用いることで、企業価値向上を図る手法で、M&Aによるエグジットが主流の米国では一般的に用いられています。 https://onecapital.jp/perspectives/dual-track 


2023年も景気後退の流れがしばらくの間続くことが予想されますが、より長期的な目線で考えると必ずしも悲観的に捉えなくてもよいかもしれません。歴史を振り返ると、時代を代表するスタートアップ企業は厳しい環境から生まれてきました。Facebook(現Meta)はインターネットバブル崩壊後の2004年に創業し、Googleも同時期の不況下で成長してきました。また、Dropbox、Airbnb、Slack、Uberなどの企業は、2008年のリーマンショック期に創業したにもかかわらず大きな成功を収めています。歴史は繰り返すもので、今回の不況もスタートアップにとってチャンスと捉えることもできます。 https://wired.jp/article/startups-layoffs-economy-bad-times/


興味深いことに、不況下に起業したファウンダーたちにはいくつかの特徴があるようです。Index VenturesのパートナーであるCarlos Gonzalez氏によると、彼らは景気が良い時のファウンダーと比べて、実現したい意義のあるビジョンを執拗に追い求め、仲間とともに何としてもその会社を成功させようとする献身的な姿勢が強いと述べています。また、不況下では競合企業が少なくなるため、市場を掌握できる可能性が高く、必要な人材を調達しやすいという利点もあると続けています。


この不況下で成功しそうな企業とはどのような企業なのでしょうか?MozillaのエグゼクティブディレクターであるMark Surman氏は、「ユーザーに新しい力を与える(User Empowerment)企業が多く現れてきている。そこに新しい風を吹き込むような企業(例としてオープンソースの暗号化メッセンジャーであるSignalなど)は、今後2、3年の間に成長する可能性がある。ひいては次の10年のテクノロジーを定義することになるかもしれない。」と述べています。 https://www.fastcompany.com/90827380/the-biggest-tech-trends-of-2023-according-to-over-40-experts


また、新型コロナウイルスのパンデミック、気候変動、ウクライナ戦争などの世界的な危機に挑むような企業が登場すると予測されます。例えば、新型コロナウイルスのワクチン開発で活躍したmRNAワクチン技術をマラリアや糖尿病といった他の病気に応用するような動き、エネルギー、交通、製造、金融などの幅広い分野における脱炭素ビジネス、そして世界的な地政学的緊張に関連した防衛、サイバーセキュリティ、エネルギー・食糧などの戦略的分野がビジネスチャンスにつながる可能性があります。 https://wired.jp/article/vol47-the-world-in-2023-world-beaters-are-born-in-the-toughest-times/

https://signal.org/en/  


ベンチャーファンドでは10年という時間軸で社会を見ることが多く、シクリカル(循環的な景気変動)という観点から見ても、不況と好景気は7年から10年ほどの間隔で訪れています。そのため、Scrum Venturesのジェネラルパートナーである宮田拓弥氏は、インフレの収束と金利下降によって市場に再びお金が流れるようになると、2025年や2026年にはもっとアグレッシブなことが起きるのではないかと予測しています。2023年は我慢の年になるかもしれませんが、そのような年だからこそ短期的な利益にとらわれるのではなく、メガトレンドを含めより長期の世の中の潮流を踏まえた上で、事業と人材の両面で戦略的な投資を仕掛けていく必要があるのではないでしょうか? https://forbesjapan.com/articles/detail/53073


ただし、トレンドや最先端のテクノロジーをやみくもに追いかけるだけでは本質を失ってしまいます。Deloitteのチーフストラテジストである邉見伸弘氏は、「情報に対するアンテナ、オーナーシップをもって自分のフレーム・モノの見方を持ち続けるような努力が必要になってきている。前提そのものを疑い、自分の視点で社会を見る姿勢があるかどうかが、成否を左右する。それは人から与えられるものではなく、自分で組み立てるモノであろう。」と述べています。 https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00087/050600225/


変化が速く不確実性の高い時代では、トレンドやテクノロジーを追いかけるだけでなく、自社や自分の軸や志となるもの磨いていくことも大切になると思います。その軸や志が明確でユニークなものであるほど、世の中の潮流を引き寄せながら、市場での優位性を築くことにつながるのではないでしょうか?

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