• Hideya Tanaka

Issue 164 - DAOがもたらす新しい働き方とイノベーション

Seattle Watch #158(こちら)では、次世代の分散型インターネットと呼ばれるWeb3について紹介しました。今回はWeb3に関連して、ブロックチェーン技術を活用したDAOと呼ばれる新しい組織の在り方について見ていきたいと思います。個人の働き方やイノベーションの創出が盛んに議論される中で、DAOは多くの示唆を与えてくれるように思います。

 

DAO(Decentralized Autonomous Organization)は、日本語で分散型自立組織と呼ばれており、Web3(※)の世界において重要な役割を果たすと言われています。このDAOは、従来の企業のように株主から選ばれた一部の経営陣や役員が意思決定を行うトップダウン型ではなく、組織に参加しているメンバーによる民主的な意思決定によって自律的に運営されます。また、国籍や性別に関係なく誰でも参加することができる点や、透明性が高く不正が難しいこともDAOの特徴として挙げられます。

※Web3: GoogleやFacebook(現Meta)のようなプラットフォーマー(中央集権的な管理者)を介すことなく、ユーザー同士でのデータや暗号資産の管理、またデジタルコンテンツの取引が可能になる分散型のインターネットのこと。


DAOは、創設者のビジョンに賛同する人が集まってできたプロジェクトとしてスタートし、独自のガバナンストークンを発行します。このガバナンストークンは組織への貢献に基づいて付与されたり、仮想通貨取引所で購入できます。ガバナンストークンを保有するメンバーや投資家は、DAOの運営に対する提案や意思決定に関わる投票に参加する権利を得ることができます。プロジェクトの開始当初は、創設者がリードして事業上の意思決定を行いますが、最終的には権限がユーザーコミュニティに委譲され、一部の人の権限に属さない自律分散型で運営される状態に移行していきます。技術的には、スマートコントラクト(ブロックチェーン技術を活用して、あらかじめプログラムされたルールに従って契約などの取引が自動で実行される仕組み)によって実現されており、プロジェクトへの貢献に対する報酬体系などの運営上のルールがそのプログラムに組み込まれています。 https://www.caica.jp/media/crypto/dao-about/


Web3関連のプロジェクトではDAOが採用され始めています。Electric CapitalのエンジニアであるEmre Caliskan氏は、Snapshot Labsのデータを引用して、DAOの組織総数が700組織(2021年5月時点)から、6,000組織(2022年の5月時点)と1年間で8.8倍に増えたと発表しています。また、DAOでの提案数は8.5倍に増え、総投票数は44万8000票から370万票へと8.3倍も増えたと自身のTwitterでも紹介しており、DAOの活性化が進んでいます。 https://twitter.com/n4motto/status/1534642569220706304


最も有名なDAOは、分散型アプリケーションプラットフォームのイーサリアムです。創設者Vitalik Buterin氏が掲げた「あらゆる目的のために使えるブロックチェーンのプラットフォームを作る」というビジョンに賛同した人々が集まって、イーサリアムのプラットフォームの改善が進められています。また、シンガポールの仮想通貨取引所のByBit が主導するDAO であるBitDAO は、DeFi や NFT に関するプロジェクトやスタートアップに出資し、成長を支援しています。BitDAOはBITと呼ばれるガバナンストークンを発行しており、BITの保持者であるメンバーや投資家は、出資先や出資額の決定に参加できます。支援したプロジェクトが大きく成長すると、BITの保有者にはその利益が配分されます。


Web3関連のプロジェクト以外にも、大学や研究機関のサイエンティストが自分たちの研究資金を募るためにDAOを設立したり、地方自治体がDAOを設立して町づくりのために国内外から多様な人材を呼び込んだり、熱狂的なスポーツファンがDAOを設立してスポーツチームを所有しようとしたりするなど、さまざまな活用方法が模索されています。 https://www.nikkei-science.com/?p=67523

https://www.town.shiwa.iwate.jp/soshiki/4/2/13/9609.html

https://www.buythebroncos.com/


DAOは新しい組織形態であり、まだ各国の法制度が追いついていない状況です。米国ではワイオミング州で初めてDAOの法人化を認める法案が承認され、同州ではDAOを有限責任会社として登記できるようになっています。しかし、まだ法的な枠組みが完全に整備されたわけではないため、さまざまなリスクも存在しています。その一方で、今後DAOが普及すれば、私たちの働き方は、企業に所属する従来の組織ベースではなく、興味のあるプロジェクトに参加して自分の強みを生かしながら貢献するプロジェクトベースの働き方へのシフトが進むことが考えられます。


また、社会全体のイノベーション創出の観点で考えてみると、DAOはイノベーションを加速させる可能性を秘めています。スタンフォード大学の社会学者のMark Granovetter氏が1973年に発表した「弱い紐帯の強さ」(the strength of weak ties)と呼ばれる理論では、同質性や類似性が高い同じ職場の仲間のような強いネットワーク(強い紐帯)より、ちょっとした知り合いや知人の知人のような弱いネットワーク(弱い紐帯)の方が、遠くにある幅広い情報を効率的に手に入れることができると説明されています。DAOに所属するメンバーは、それぞれ異なるDAOにも参加するため、より幅広い情報を手に入れることができ、価値のある情報伝達やイノベーションの伝播にポジティブに働く可能性があります。DAOやWeb3の領域は非常に興味深く、Webrainでは今後もDAOの進展に注目していきたいと思います。 https://www.jstor.org/stable/2776392




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