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David Peterman

Issue 158 - Web3が意味すること

Seattle Watch #154でNFTについて紹介した際、Web3について簡単に触れました。Web3(Web3.0と同義語)は、「次世代のインターネット」とも呼ばれています。果たしてこれはどのような意味なのでしょうか?その一端を紹介していきたいと思います。

 

Web3.0を理解するには、1990年代半ば以降のインターネットの進化の歴史について振り返る必要があります。当時、初めてインターネットを利用した人は、情報がほぼ一方向に流れるWorld Wide Webを経験しました。つまりウェブサイトを訪問し、そこに投稿されたコンテンツを読むことができるようになったのです。これが今でいうWeb1.0です。2004年頃になると、ウェブサイトがインタラクティブ性を獲得し、ソーシャルメディアやEコマースプラットフォームが誕生しました。このWeb2.0は現在も続いています。 https://www.nasdaq.com/articles/the-truth-behind-web3


Chainlink LabsのCMOであるAdelyn Zhou氏は、Web3.0を「インターネットの分散型ビジョン」と表現して、「Web3.0は、Web1.0のユーザー重視の分散型アーキテクチャを復活させ、Web2.0のリッチでインタラクティブな体験と融合させている。」と述べています。その背景にあるのは、ユーザーに自分自身のデータの完全な所有権を与え、どの企業にも属さない分散型アプリケーションによってトランザクションを制御させることです。これを実現するには、データの保存、共有、所有の方法を完全に変えて、新しいインターネットを一から構築する必要があります。Web3.0の推進派は、これによってようやくウェブ上に真の民主主義が生まれると主張しています。もし、Web1.0がユーザーが消費することに焦点を当て、Web2.0がユーザーに創造する能力を与えたとすれば、Web3.0はユーザーが所有することを可能にしていると整理することができます。 https://hbr.org/2022/05/what-is-web3


ここからはWeb3と呼びます。Web3では、ブロックチェーン、暗号通貨、スマートコントラクト、オラクルという4つのキーテクノロジーが機能しています。ブロックチェーンと暗号通貨についてはすでによく知られているので、今回は残りの2つについて詳しく見ていきます。スマートコントラクトは、基本的にブロックチェーン上で実行されるif/thenコードに過ぎません。例えば、2人の人間が野球の試合結果について互いに賭けたとき、それぞれの賭け金は暗号通貨として集められ、エスクロー口座(第三者預託)に入れられます。試合が終了すると、スマートコントラクトが最終的なスコアを受け取り、勝者に暗号通貨を授与します。他の例では、株価がある価格になったら売却するように設定することも、スマートコントラクトが可能にします。


スマートコントラクトは分散型ブロックチェーン上に存在するため、どの企業のプラットフォームにも縛られない透明性を持っています。また、これらは分散型アプリケーションであるためdApps(dはdecentralizedの略)と呼ばれることもあります。これまでの株取引であれば、その売却を実行する際にE*Tradeのような金融機関を仲介していましたが、スマートコントラクトの場合はその必要がありません。その代わりに分散型金融(DeFi - Decentralized Finance)という中央管理者のいない金融仲介アプリケーションが対応し、ユーザーが一連の金融アプリケーションツールに直接アクセスすることができます。つまり、これまで金融大手企業が提供してきた高機能なツールやアプリケーションを不要にし、人種や年齢、貧富に関係なく誰でも利用できるオープンソースの力を活かしたフレームワークとして利用できるようにしようとしているのです。さらに、DeFiには単一の障害点がないため、銀行や証券会社など単一の事業体が破綻した場合に被害が拡大するリスクも軽減されます。 https://chain.link/education/defi https://future.com/what-is-decentralized-finance/


しかし、1つだけ疑問があります。スマートコントラクトは、野球のスコアや株価などの外部データをどのように取得するのでしょうか?そこで登場するのがオラクルです。オラクルは、同名のソフトウェア会社ではなく、ブロックチェーンの外の情報をブロックチェーンに入力する信頼性の高い外部データソースのことで、スポーツのスコア、株価、気象データなどさまざまなデータがあります。そして、スマートコントラクトは複数のオラクルから構成される分散型オラクルネットワーク(DON - Decentralized Oracle Networks)を利用して、エンドツーエンドの分散型構造を構築しています。 https://chain.link/education/blockchain-oracles


「分散型」という言葉が何度も出てきましたが、これは、Web2.0を独占してきた巨大テック企業から脱却し、権力と所有権をユーザーの手に取り戻したいという願望を訴えるもので、Web3の特徴としてよく引用されます。アプリがあらゆる場所で動作し、どの企業にも属さないのであれば、理論的にはFacebookやGoogleのような巨大企業の台頭を防ぐことができます。しかし、真の分散化が達成され維持されるかどうかは、まったくわかりません。個人的には現在の巨大テック企業やスタートアップたちは何らかの方法で、この新しい分散型のエコシステムでも利益を得る方法を見つけると考えています。


ブロックチェーン取引をインターネット全体に拡大すること場合、懸念される点もあります。それは環境破壊です。ブロックチェーンにトランザクションを書き込むには、膨大な電力を消費するコンピューティングパワーが必要になります。例えば、ビットコインの採掘者(マイナー)は、1回のトランザクションでMacBook Air1台分の電子廃棄物を出すと言われるほど、大量のハードウェアを消費し、ビットコインは1年間でオランダの国土の大きさと同じ量の電子廃棄物を発生させるという報告もあります。 https://hbr.org/2022/05/what-is-web3


ブロックチェーン、暗号通貨、スマートコントラクト、オラクルといった様々な部品は既に存在していますが、Web3はまだ道半ばです。多くのアライアンスや標準化団体では、Web3の技術規格を定義するための作業を続けており、克服すべき技術的な障害もまだ多くあります。Web3がすぐそこまで来ていると考える識者もいれば、まだ5~10年先だと言う識者もいます。個人的には今すぐWeb3に対応するために思い切ったことをする必要はないと思われます。しかし、将来を見据えた動きは必要で、未来を考える戦略担当者を社内にアサインしてその動向を注視し、次のインターネットの流れに乗るための基礎を築くことは、すべての企業にとって賢明な判断だと思います。


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