• Hideya Tanaka

Issue 148 - 民主主義のアップデート

皆さま、明けましておめでとうございます。2022年最初のSeattle Watchでは、今年の大きなテーマの1つになるであろう「民主主義」について考察していきます。最近、民主主義の後退について話される機会が増えているように思います。同時に民主主義の再構築が様々な場所で起きようとしており、テクノロジーを駆使することで、それを実現しようとする動きも出てきています。そこで、今回は民主主義のアップデートについて話していきたいと思います。

 

英国のエコノミスト誌が2021年の11月に発行した「The World Ahead 2022」では、2022年を形作るであろう10のテーマを紹介しています。その最初に挙げられているのは、「民主主義 vs 専制主義」(Democracy vs Autocracy)です。今年は米国で中間選挙、中国で共産党大会が開催されるため、同誌では、安定や成長、そしてイノベーションをよりもたらすのは民主主義体制か権威主義体制のどちらかという対立がより顕著になると予測しています。

https://www.prnewswire.com/news-releases/2022-will-be-the-year-of-adjusting-to-new-realities-according-to-the-economists-the-world-ahead-2022-301419393.html


民主主義の後退は近年の大きな潮流の1つになってきています。スウェーデンの研究機関であるIDEA(民主主義・選挙支援国際研究所)が昨年の11月に発表したレポートによると、2016年以降、権威主義体制に向かう国や地域の数は、民主主義に向かう国や地域の数の約3倍になったと報告をしています。そして、民主主義国の絶対数が、2015年の104ヵ国から2020年には98ヵ国へと減少しているのです。 https://www.idea.int/gsod/global-report


これに対して危機感を感じている米国のバイデン大統領は、2020年の12月に世界100ヵ国・地域以上の首脳らを招いて、「民主主義サミット」(Summit for Democracy)を初めて開催し、世界に対して民主主義の強化を訴えています。バイデン大統領は、「民主主義は偶然に起こるものではなく、守り、戦い、強化し、更新していかなければならない。」と述べ、世界中の民主主義の強化に最大で4億2,440万ドルを提供するとも発表しています。 https://www.state.gov/summit-for-democracy/


バイデン氏の発言にもある民主主義の更新ですが、昨年100歳を迎えた米国の国立公園のレンジャーであるBetty Reid Soskin氏は、「民主主義は決して固まらないプロセスである。どんな世代の人々であろうと、自分たちの時代が来れば、民主主義を再構築しなければならない。」と述べています。 https://www.stmarys-ca.edu/betty-reid-soskin-addresses-generations-of-change


では、2022年における民主主義の再構築(アップデート)とはどのようなものになるのでしょうか?民主主義や経済的不平等を研究するMax Rashbrooke氏は、現在の民主主義の最大の課題の1つは、19世紀や20世紀から受け継いだシステムに頼りすぎて、民主主義に関するテクノロジーをアップグレードしてこなかったことにあると指摘しています。 https://www.ted.com/talks/max_rashbrooke_3_ways_to_upgrade_democracy_for_the_21st_century


同氏は、意思決定権が公平に分配されず、不満や不安を抱えている人々への解決策として、テクノロジーを活用することで、民主主義をより身近なものにして、より積極的な関与や参加を促すEveryday Democracyという考え方を提唱しています。経済格差が深まり、より多くの人が社会から取り残されていると感じている中で、彼らを救済する一つの方法がこの民主主義のアップデートなのかもしれません。


人類学者のDavid Graeber氏は、著書「民主主義の非西洋起源」の中で、民主主義とは平等志向の合意形成プロセスであり、ある共同体と他の共同体が出会う「間」(Between)において出現すると述べています。つまり民主主義は、どこでも起こりうるものであり、常にアップデートされてきた歴史があると言えます。


民主主義と聞いてまず思い浮かべるのは、国の政策や選挙かもしれませんが、都市や自治体レベルでの市民による政策提言や、企業や組織の内部における合意形成のプロセスにも大きく関わってきます。社会変化の速度が著しい現代において、この合意形成のプロセスをいかにテクノロジーによって効率化できるかが、権威主義に対して民主主義が立ち向かうための新たな一つの道筋になるのではないかと思います。 https://www.amazon.co.jp/民主主義の非西洋起源について:「あいだ」の空間の民主主義-デヴィッド・グレーバー/dp/4753103579  

 

<民主主義のアップデートを支援するテクノロジー>

Polis (https://pol.is/home) 

Polisは、高度な統計学と機械学習を駆使することで、大勢の人々の意見を集約して、参加者の間での活発な議論を促すリアルタイムのシステムである。一定数の意見や投票が集まると、議論が視覚的にマッピングされて論点が絞り込まれていく。台湾政府の法令議論プラットフォームであるvTaiwanでは、Uberに対する規制を策定する際に、Polisを使ってオンライン議論を行い、4週間ほどで4,000人もの人々が議論に参加した。その合意事項として6つの提言が出され、政府はそのほとんどを採択して、Uberもその提言に批准している。同システムは、シアトル在住の技術者と元活動家からなるチームが開発したもので、完全なオープンソースとなっている。

Decidim (https://decidim.org/)

Decidimは参加型民主主義プロジェクトのためのツールである。オンライン上で多様な市民の意見を集め、議論を集約し、政策に結びつけていくための機能を提供しており、都市や自治体、非営利団体などのコミュニティーで利用されている。意見やアイデアへのフィードバック機能や計画策定の間のプロセスが設計されているため、徐々に議論を収束させていくことができる。Decidimには、参加型予算編成、住民参加型計画立案、署名活動や市民相談受付、討論、住民ネットワークとコミュニケーションなどの機能がある。バルセロナでは、4年間で4万人以上がDecidimから政治参加し、人々の生活に直結する議題などに対し、1万を超える提案から約1,500のプランが採択されている。

D-Agree (https://d-agree.com/site/) 

D-Agreeは、AIがリアルタイムでファシリテーションを行うことで、議論と合意形成の支援を行うオンラインプラットフォームである。同サービスでは、時間の制約を受けずに、大規模な意見集約を行うことが可能で、AIによって議論内容の抽出・構造化・分析が行われるため、さらに議論を深めることができる。同サービスは、京都大学と名古屋工業大学発のスタートアップ企業のAGREEBITが開発しており、愛知県の春日井市や春日井商業高校との実証実験も進められている。




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