今回のSeattle Watchでは、「宇宙産業のシリコンバレー」とも呼ばれるワシントン州のエコシステムに触れながら、今後の宇宙ビジネスの進展について考察していきます。また末尾には、来週開催予定のウェビナーについてもご案内をしております。
2021年7月にアマゾンの元CEOジェフ・ベゾス氏が設立した宇宙開発企業Blue Originが初の有人飛行に成功したニュースは日本でも大きく取り上げられましたが、Webrainが拠点を置くワシントン州が、宇宙ビジネスの集積地になっていることは、あまり知られていないかもしれません。
ワシントン州は、伝統的な企業と新しい企業が混在しており「宇宙産業のシリコンバレー」と呼ばれることもあります。Blue Originだけでなく、SpaceX、Spaceflight Industries、Tethers Unlimitedなどの有名企業をはじめ、30社以上の宇宙関連企業が拠点を置いています。ワシントン州商務省によると、宇宙産業は6,200人以上の従業員を雇用し、同州に17億6千万ドルの経済価値をもたらしています。そこに航空関係を足した航空・宇宙産業全体では700億ドル規模で、25万人以上の雇用を生んでいます。 http://choosewashingtonstate.com/why-washington/our-key-sectors/aerospace/commercial-space/
これには、ワシントン州全体で航空宇宙産業を下支えするエコシステムが長年にわたって構築されてきた背景があります。同州は、世界最大の航空機メーカー、ボーイング発祥の地であり、100年以上にわたって航空・宇宙分野で圧倒的な存在感を示し続けています。そこで培われたノウハウやサプライチェーンのネットワークが、マイクロソフトやアマゾンが持つAIやクラウドなどの最先端技術と結びついて、イノベーションを起こしているのです。
また、シアトルには任天堂やXboxなどゲーム開発の拠点にもなっており、CGやレンダリング処理、シミュレーションなどの分野に長けたエンジニアが多く存在しています。さらに、州政府が航空宇宙産業に対して、減税や繰延税金、売上税や使用税の免除などさまざまなインセンティブを提供していることや、ワシントン大学が優秀なエンジニアを安定的に輩出していることがその動きをさらに加速させています。 http://choosewashingtonstate.com/why-washington/our-key-sectors/aerospace/
Bank of Americaによると、宇宙経済(Space Economy)は2020年時点で5,000億ドル規模と推定されており、2030年には約3倍の1兆4,000億ドル規模になるとも言われています。では、なぜ宇宙経済が大きな成長の可能性を秘めているのでしょうか? https://www.cnbc.com/2020/10/02/why-the-space-industry-may-triple-to-1point4-trillion-by-2030.html
宇宙経済といっても、ロケットの製造やインフラ整備、人工衛星の利用、宇宙空間や宇宙資源の利用、そして宇宙探索など多くの領域に分かれていますが、どの分野にも共通するのは宇宙を資本主義における最後のフロンティアと認識していることではないでしょうか?現在の資本主義は消費による経済成長を中心に据えて発展し、世界の隅々まで行きついてしまいました。
そのような中で、良く語られているように、次なるフロンティアを求めて多くの資本が宇宙産業に集中しつつあるのです。また、宇宙開発は民間でやるべきという世界的なトレンドが宇宙経済の推進力になっています。この大きな流れの発端は、米国政府による政策転換で、2010年にオバマ大統領が出した「新国家宇宙政策」では、民間企業の技術やサービスの購入が明記されています。 https://www.nikkei.com/article/DGXNASGM2900Y_Z20C10A6NNC000/
このように宇宙の産業化や商用化が進んでいるものの、国家安全保障上の観点からみると、国家間の競争という戦いの構図は生まれています。5G技術を巡る米中の覇権争いのように、宇宙経済もその争いからは逃れられません。この宇宙経済の経済圏において、日本の製造業はコアとなって戦う力を多く持っていると思います。どのようにこのコアを大きくし、またそれを支えるエコシステムを育てていくのか?ワシントン州による宇宙経済の商業化のアプローチから学べることが多くあるのではないかと思います。下記にて同州における宇宙産業のスタートアップ企業をいくつか紹介していきます。
<宇宙経済を支えるワシントン州のスタートアップ企業>
Xploreは、月、火星、金星、小惑星帯などへの商用ミッション用に設計された宇宙船とプラットフォームの開発を通じて、Space as a Serviceを提供することを目指している。同社によると、すでに民間企業だけでなく、NASA、米国海洋大気庁、米国宇宙軍、空軍とのプロジェクトにも取り組んでいるという。同社は、小さな積載物(約32〜68kg)を深宇宙の目的地に運ぶことができる宇宙船を開発しており、これには光学式カメラなどを含むセンサー群、温度やその他の宇宙の気象状況を測定するツール、ハイパースペクトルイメージングツールなどが搭載される。
Tethers Unlimited (https://www.tethers.com/)
Tethers Unlimitedは、は、スペースデブリ(宇宙ゴミ)除去に有望な技術であると注目されている導電性テザー(廃衛星等の宇宙ゴミに取り付けた電線から電流を流してローレンツ力を発生させることで、宇宙ゴミを軌道変更させて処分する技術)を開発している。同社によると、装置をさらに小型化して、数キログラム程度の超小型衛星に搭載できるようしたり、逆にを大きくすることで大きな衛星にも応用できるという。2020年1月には、軌道上でのテザー実証実験に成功していおり、同社は2020年にAmergint Technologyに買収されている。
BlackSky (https://www.blacksky.com/)
BlackSky社は、小型地球衛星を用いてリアルタイムに地球観測を行い、分析プラットフォームであるSpectra AIによってそのデータを分析している。同社はすでに6機の衛星を運用しており、2021年末には14機に達する見込みである。顧客は、高品質の衛星画像を簡単かつ手頃な価格でアクセスでき、地球に関するさまざまな知見を深めることができる。同社のサービスは、イランの核施設での活動を追跡・監視する調査や羽田空港での駐車スペースの監視などに活用されており、他にも農業、林業、国防、エンジニアリングなど幅広いユースケースが想定されている。また、同社は今年9月にNYSEへの上場を果たしている。
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